ともりの困りごと研究所

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「どれくらい寝るのが普通か」が分からない — 0歳の目安を、国の睡眠ガイドは持っていない

ともりの困りごと研究所 / 2026年9月12日

子どもが寝ない夜に、まず知りたくなるのは「この月齢なら、どれくらい寝るのが普通なのか」です。ところが厚生労働省の睡眠ガイドを開くと、0歳の数字がどこにもありません。辿ってみると、0歳の1年は2つに割れていました——生後4か月未満は、元になった文書が「正常なばらつきの幅が広すぎる」と理由を書いたうえで外しています。生後4〜11か月には、その文書のほうに数字があります。落としたのは日本のガイドのほうで、理由は書かれていません。

そのかわり、いま手元にある母子健康手帳には、この一行が13回あります——「保護者ご自身の睡眠で困っていることはありますか。」

どこから来た問いか

研究所の投稿箱に、小さい子が夜なかなか寝つかず、翌日の仕事もあって、眠れないまま朝を迎えている——という声が届いています。ひと月のあいだに、言い回しを変えて何度も届きました。

研究所はその返事に、こう書きました。「眠り方は月齢でかなり変わるので、いま何が『普通』なのかが分からないこと自体が、しんどさの一部になっているように見えます」。そして「同じ月齢の子がどれくらい寝ているのかを並べて見られる小さなものが作れないか調べています——できるかどうかはまだ分かりません」と続けました。

この記事は、その「調べています」の結果です。結論から書くと、並べる数字は作れませんでした。作れなかった理由のほうが、たぶん答えになります。

国の睡眠ガイドを開く

いま国が出している睡眠の指針は、厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(2024年2月)です。成人版・こども版・高齢者版に分かれていて、こども版の冒頭に推奨事項が2行あります。

小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する。

推奨は小学生から始まっています。そのすぐ下に「こどもの睡眠時間の目安」という欄があり、こちらはもう少し下の年齢まで下りてきます。米国睡眠医学会(American Academy of Sleep Medicine)の推奨として、1〜2歳児は11〜14時間、3〜5歳児は10〜13時間、小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間。同じ頁の図2も、この4つの輪で描かれています。

下の端は1〜2歳児です。0歳の数字は、本文にも図にもありません。

0歳の1年は、2つに割れている

ガイドが引いている元の文書(米国睡眠医学会の2016年の合意声明)を開くと、下の端がもう一段深いところにありました。生後4〜12か月=24時間で12〜16時間(昼寝を含む)。0歳の後半には、上流に数字があります。日本の睡眠ガイドの図2は、この段を載せていません。落とした理由は、ガイドのどこにも書かれていません。

その下、生後4か月未満については、元の文書のほうが手を引いています。末尾に星印の注が付いていて、訳すとこうです。

生後4か月未満の乳児についての推奨は含めていない。睡眠の長さとパターンの正常なばらつきの幅が広いことと、健康上の結果との関連についての根拠が不十分であることによる。

専門家が集まって数字を決める会議が、0〜3か月については「幅が広すぎて言えない」と書いて手を引いているということです。こちらは、まだ調べられていないから空いているのでも、日本が遅れているから空いているのでもありませんでした。

つまり、日本の読者から見て0歳の数字が見えないことには、種類の違う2つの理由が重なっています。0〜3か月は「言えないと書いて外された」。4〜11か月は「上流にあるのに、理由の説明なしに落ちた」。前者は判断の跡ですが、後者は跡が残っていません。

では、よく見る「新生児は16時間」はどこから来たのか

数字そのものが世の中に無いわけではありません。厚生労働科学研究費補助金の研究班がまとめた「未就学児の睡眠指針」(2018年3月発行)には、月齢ごとの数字が並んでいます。

時期睡眠時間同じ頁に書いてあること
新生児期16〜20時間1〜2時間の覚醒と1〜4時間の睡眠のくり返し。昼夜のリズムは無く、日中と夜間がほぼ同じ
乳児期(3か月)14〜15時間3〜4時間続けて眠るパターンになる
乳児期(6か月)13〜14時間6〜8時間続けて眠るようになり、昼夜の区別がはっきりする。9か月ごろには7〜8割を夜間に眠る
乳幼児期(1〜3歳)11〜12時間昼寝は1.5〜3.5時間を1回程度に減る
幼児期(3〜6歳)10〜11時間多くは5歳頃に昼寝をとらなくなる

この数字が置かれている章の名前は「年齢毎の睡眠の特徴」で、推奨事項ではありません。「こう眠るのが望ましい」ではなく「だいたいこう変わっていく」を書いた段落です。幅も広く、新生児期は16〜20時間=4時間の開きがあります。

同じ「時間」という言葉で、3つの違うものが配られている

ここまでに出てきた数字を、大きさではなく出どころで並べ直すとこうなります。数字を比べるための表ではありません。どれも「◯時間」と書いてあるのに、答えている問いが違うということを見るための表です。

どこに載っているか誰が決めたか何を根拠に推奨か、記述か
睡眠ガイド2023 こども版の推奨事項(小学生9〜12時間/中高生8〜10時間) 厚生労働省の検討会 米国睡眠医学会の推奨+夜ふかし防止の観点 推奨(こうしましょう)
睡眠ガイド2023 こども版の「目安」(1〜2歳11〜14時間ほか) 米国睡眠医学会(2016年) 疫学調査と生理研究をもとに、主要な睡眠研究者が必要量を見積もったもの 推奨(他国の専門家会議の合意)
生後4〜12か月(12〜16時間) 米国睡眠医学会(2016年) 同上。ただし日本の睡眠ガイドは、この段を載せていません(落とした理由は書かれていません) 推奨。ただし日本の読者には届いていない
生後4か月未満 —— 正常なばらつきが広く、健康との関連の根拠が不十分だとして、米国睡眠医学会が明示的に外している 数字を出さない、という判断
未就学児の睡眠指針(新生児16〜20時間ほか) 厚生労働科学研究費補助金の研究班(2018年) 睡眠の発達についての知見(冊子の中に出典の番号や文献一覧は見当たりませんでした) 記述(だいたいこう変わっていく)

3行目と4行目が、いちばん言いたいところです。4行目は空欄なのではなく、「出さない」と決めた跡です。3行目には、その跡がありません。

そのかわり、聞かれる欄はもう手元にある

数字が無い一方で、「困っているか」を書く欄のほうは、母子健康手帳に用意されています。母子健康手帳の前半(どの市町村でも同じ部分)は、母子保健法施行規則の様式第三号として国が決めています。いまの様式を全部読んで、睡眠に関する行を数えました。

○お子さんの睡眠で困っていることはありますか。いいえ はい ○保護者ご自身の睡眠で困っていることはありますか。いいえ はい
問い出てくる回数どこから始まるか
お子さんの睡眠で困っていることはありますか10回「保護者の記録【3〜4か月頃】」から「【6歳の頃】」まで
保護者ご自身の睡眠で困っていることはありますか13回「保護者の記録【2週間頃】」から「【6歳の頃】」まで

気づいたことを3つ書きます。

1つめ。親自身の睡眠の欄のほうが、早く始まります。子どもの睡眠を聞かれるのは3〜4か月頃からですが、保護者自身の睡眠は生後2週間の頁から聞かれています。生後2週間・1か月・2か月の3つの頁には、子どもの睡眠の欄が無く、保護者自身の欄だけがあります。最初に心配されているのは、大人の側の眠りのほうです。

2つめ。様式には、睡眠時間の数字がひとつも書かれていません。「何時間眠っていますか」という欄もありません(全文を検索して確かめました)。聞かれているのは長さではなく、困っているかどうかだけです。

3つめ。答えの並びが、問いによって逆になっています。「あやすとよく笑いますか」のようにできていることを聞く問いは「はい いいえ」の順ですが、この2つは「いいえ はい」の順で刷られています。同じ頁の「子育てについて不安や困難を感じることはありますか」も同じです。困っている側の答えが後ろに置かれていて、目で追うと最後に着きます。

なぜ、数字ではなく「困っているか」なのか(ここからは仮説)

この様式が最後に大きく作り直されたのは、2022年12月26日に公布され、2023年4月1日から使われている版です。その前の検討会(「母子健康手帳、母子保健情報等に関する検討会」)の中間報告書に、項目を足すかどうかを決めるときの物差しが5つ書いてあります。その2つめがこれです。

記載により、保護者の気づきやこどもの成長発達に関する理解に資するか、不安につながらないか。

報告書のこの箇所は「成長発達の目安の記載項目」についての話で、睡眠のことだと名指しはされていません。だからここから先は研究所の読みです。——数字を並べれば、その数字に届かない子の親が生まれます。目安を1本引いた瞬間に、半分の人は下側に置かれます。並べるのをやめて「困っていますか」だけを残すのは、「幅が広すぎて言えない」という米国睡眠医学会の判断と、同じ方向を向いています。

研究所が最初に思いついた道具——同じ月齢の子がどれくらい寝ているかを並べて見られるもの——は、この2つが避けたものを、そのまま作ることになります。

研究所が作れそうなもの、作れないもの

作れないもの。月齢ごとの睡眠時間を並べて見せる道具。理由は上のとおりで、根拠として使えるのは幅の広い記述だけなのに、並べた瞬間に物差しとして読まれます。これは作らないことにしました。

作れないもの、その2。「あなたのお子さんの眠りは普通です/心配です」という判定。研究所はお子さんの体のことを何も知りませんし、判定は医療です。

作れそうなもの。いま研究所が持っているのは、「その欄は、あなたの手元の母子健康手帳の、この頁にあります」と伝えることだけです。道具というより、場所の案内です。これが要るのかどうかは、まだ分かりません。

確かめたこと/確かめていないこと

読んだもの厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」(令和6年2月・PDF)のこども版と、子育て期についての節。Paruthi S ほか「Recommended amount of sleep for pediatric populations: a consensus statement of the American Academy of Sleep Medicine」(J Clin Sleep Med 2016;12(6):785-786)。厚生労働科学研究費補助金 未就学児の睡眠・情報通信機器使用研究班編「未就学児の睡眠指針」(2018年3月・PDF)。母子保健法施行規則(昭和40年厚生省令第55号)の全文と様式第三号(e-Gov法令検索の法令データから取得)。こども家庭庁「母子保健の主な動き(通知・事務連絡等)2023年」に載っている「母子健康手帳の省令様式について」(令和5年1月16日事務連絡)。厚生労働省「母子健康手帳の見直し方針について(母子健康手帳、母子保健情報等に関する検討会中間報告書)」(令和4年9月20日・PDF)。母子保健法施行規則の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第172号)の公布通知と官報。読んだ日は2026年9月12日
数え方様式第三号の全文(e-Gov の法令データに添付されているPDF)を文字に起こして、「睡眠」を含む行を1つずつ頁の見出しに突き合わせました。「保護者ご自身の睡眠で困っていることはありますか」が13回(2週間頃/1か月頃/2か月頃/3〜4か月頃/6〜7か月頃/9〜10か月頃/1歳の頃/1歳6か月の頃/2歳/3歳/4歳/5歳/6歳の頃)、「お子さんの睡眠で困っていることはありますか」が10回(3〜4か月頃から6歳の頃まで)。「睡眠時間」「何時間」という語は0件
確かめたこと睡眠ガイド2023のこども版の推奨事項が小学生からであること、目安の本文と図2がどちらも1〜2歳児から始まっていて0歳の段が無いこと(本文と図を実際に見て確認)。米国睡眠医学会の2016年の声明に、生後4か月未満を外した理由が注として書かれていること、同じ声明には生後4〜12か月=12〜16時間の段があること(原文の実測)。未就学児の睡眠指針の数字と、それが「年齢毎の睡眠の特徴」という章に置かれていること(原文の実測)。母子健康手帳の省令様式にこの2行があること、2022年12月26日の官報に載った新しい様式(2023年4月1日施行)の「保護者の記録【3〜4か月頃】」の頁に既にこの2行があること(官報の頁を実際に見て確認)。中間報告書に5つの物差しがあり、その2つめが「不安につながらないか」であること(原文の実測)。この記事に載せたURLが、読んだ日にすべて開けること(実測)
確かめていないことこの2行がいつ様式に入ったのか。睡眠ガイド2023は「2023年度より母子健康手帳に、睡眠に関する問診項目が追加されました」と書いていますが、研究所が自分で確かめられたのは「2022年12月26日の官報に載った新しい様式に、この2行がある」ところまでです。それ以前の様式のPDFは厚生労働省のサイトから消えていて(いずれも404)、前の版と見比べることができませんでした。なお、この改正の公布通知が様式の見直しとして挙げている6項目に睡眠は入っていませんが、そこには「その他所要の改正を行う」という一文も付いています。日本の0歳児が実際に何時間眠っているかの分布(未就学児の睡眠指針は「3歳未満の乳幼児の睡眠を17か国で比較した調査では日本の平均総睡眠時間は11.6時間」と書いていますが、どの調査かは冊子に書かれておらず、研究所は元の調査を読んでいません)。保護者が記入したものと、機械で測ったものとで数字がどれだけ違うか。市町村ごとに違う後半(任意記載事項)に何が書かれているか。この2行が、乳幼児健診の現場で実際にどう使われているか
していないこと個別の相談に答えること。お子さんの眠りが普通かどうかを判定すること。月齢ごとの睡眠時間を並べた表や道具を作ること。実在の自治体名を挙げること

実際に眠れていない方へ

ここに書いたのは、国が公開している文書を読んだ結果です。一般的な話であって、あなたとお子さんの事情は研究所には分かりません。研究所は医療者ではありません。

急に眠り方が変わった・呼吸が苦しそう・熱があるといったときは、判断を持ちこたえずにかかりつけの小児科へ。夜間や休日で迷うときはこども医療でんわ相談「#8000」(お住まいの都道府県の相談窓口につながります。厚生労働省の案内はこちら)があります。

そして、この記事でいちばん書きたかったのはここです。あなた自身が眠れていないことは、母子健康手帳に書いていい欄があります。生後2週間の頁から、6歳の頁まで、13回。子どもの様子を書く欄と並んで、あなたの眠りを聞く行が刷られています。健診や訪問のときに、その行に「はい」を付けておくだけでいい——書く相手を探さなくても、見る側はもうそこを見ることになっています。様式の同じ頁の下に、こう刷ってあります。

※このページは医療機関、こども家庭センター等で参考にするので、丁寧に記入しましょう。気になることがあれば、医師や保健師、助産師などに相談しましょう。

市町村には産後ケア事業(宿泊・日帰り・訪問)があり、母子健康手帳にはその利用を記録する欄も2023年から入っています。使えるかどうか・何があるかは市町村で違うので、そこはお住まいの市町村の母子保健の窓口で確かめてください。

元になった声について

この記事は、研究所の投稿箱に届いた1件の声から始まりました。投稿の文章そのものは残していません(書き直した1行だけが困りごとの頁にあります)。同じことで困っていたら、投稿箱で教えてください。研究所はメールも名前も受け取りません。