ともりの困りごと研究所

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「106万円の壁」は、10月に無くなるのではなく、もう無くなっている

ともりの困りごと研究所 / 2026年9月22日

2026年10月に、いわゆる「106万円の壁」が撤廃される予定です。けれど、その線は、あなたの都道府県では、もう地面の下にあります。最後に沈んだのは秋田県で、2026年3月31日。法律が撤廃するより、半年早く終わっていました。

「106万円の壁」と呼ばれているものは、条文では「所定内賃金が月額8万8千円未満であること」という、社会保険に入らなくてよい条件です(厚生年金保険法第12条第5号ロ)。逆に言えば、8.8万円以上になると、ほかの条件も満たす人は加入します。

8.8万円を、週20時間の月あたりの時間数(20×52÷12=86.67時間)で割ると、1時間あたり1,015.4円。つまり時給1,016円以上で週20時間働けば、金額の条件は自動的に満たされます。そして令和7年度の地域別最低賃金は、47都道府県すべてが1,016円以上になりました(いちばん低いのが1,023円)。

賃金の条件は、撤廃される前に、もう誰も選別していません。最低賃金どおりに払われている限り、週20時間働く人はみな超えているからです。

どこから来た問いか

この記事は、誰かの相談から始まったものではありません。研究所のリポジトリに、8月の終わりに作ったまま置きっぱなしになっていたファイルが1本ありました。扶養の「壁」の数字を、出典と確認日つきで集めただけのもので、画面も道具も作られていません。今夜それを開いたら、その中の1行が目に留まりました。

賃金要件(月8.8万円=いわゆる106万円の壁)は 2026年10月 に撤廃予定(厚労省・年金機構の表記は「予定」)。

今夜は9月22日です。その「予定」の月は、来月でした。それで、何が変わるのかを条文と数字から確かめることにしました。

まず、条文に何と書いてあるか

短時間で働く人が社会保険(厚生年金保険・健康保険)に入るかどうかは、「入らなくてよい人」の側から書かれています。厚生年金保険法第12条は「適用除外」という見出しで、第5号に短時間労働者の条件を置いています。通常の労働者の4分の3未満で働く人のうち、イ・ロ・ハのどれかに当たる人は加入しません。

号条文(厚生年金保険法第12条第5号)通称
イ一週間の所定労働時間が二十時間未満であること。週20時間の要件
ロ報酬(最低賃金法第四条第三項各号に掲げる賃金に相当するものとして厚生労働省令で定めるものを除く。)について……算定した額が、八万八千円未満であること。賃金要件=「106万円の壁」
ハ高等学校の生徒、大学の学生その他の厚生労働省令で定める者であること。学生でないこと

健康保険法にも、まったく同じ一文があります(健康保険法第3条第1項第9号ロ・「八万八千円未満」)。2つの法律に、同じ条件が同じ言葉で置かれています。

これに、企業規模の要件(厚生年金保険の被保険者が51人以上)が加わって、条件は4つです。

ここで、ロの括弧の中を見てください。「最低賃金法第四条第三項各号に掲げる賃金……を除く」と書いてあります。8.8万円の要件は、最初から最低賃金法を参照して書かれていました。

「106万円」という数字は、条文のどこにもない

8.8万円×12か月=105.6万円。ここから「106万円の壁」という呼び名が来ています。けれど、条文にあるのは月額8.8万円だけで、年収106万円という数字はどこにもありません。そして、この2つは同じものを数えていません。

数える対象いわゆる「106万円」(社会保険の加入)いわゆる「130万円」(健康保険の被扶養者)
単位月額の所定内賃金年間収入
賞与含めない含める
残業代・休日手当・深夜手当含めない含める
通勤手当・家族手当・精皆勤手当含めない含める
根拠厚生年金保険法第12条第5号ロ(最低賃金法第4条第3項を参照)労働基準法第11条の賃金(日本年金機構の取扱い)

だから「106万を超えたら次は130万」と、1本の線の上で考えることはできません。残業をたくさんした月があっても、8.8万円の判定には入りません。逆に、通勤手当を足すと130万を超える人でも、所定内賃金は8.8万円に届かないことがあります。2つの壁は、違うお金を数えています。

1,016円という数字

研究所が割り算をしたのではありません。国の資料に、その数字がそのまま書いてあります。厚生労働省が令和8年1月に作った「短時間労働者の社会保険(厚生年金保険・健康保険)の加入拡大のポイント」の1枚目、ポイント1はこうです。

最低賃金の上昇により、週20時間以上働く方は、自動的に社会保険の加入要件を満たすため、賃金要件を意識する必要がなくなります
……賃金が時給 1,016円以上になった場合に、週20時間以上働くと、月額賃金が8.8万円以上となり、自動的に賃金要件を満たします。

研究所でも検算しました。8.8万円 ÷ 86.67時間 = 1,015.4円。1円単位で切り上げて1,016円です。1,015円だと87,967円で、33円足りません。

週20時間を月に直すときの「86.67時間」は、年金機構が定めている換算です——1週間の所定労働時間が月単位で決まっている場合は「1か月の所定労働時間を12分の52で除して算定」する、と書かれています。1年を52週、12か月として換算するという意味です。

いつ、線は沈んだか

令和7年度の地域別最低賃金は、47都道府県すべてが1,016円以上になりました。いちばん低いのは高知・宮崎・沖縄の1,023円で、週20時間なら月88,660円。8.8万円を660円上回ります。

ところが、1年前はそうではありませんでした。令和6年度の地域別最低賃金で1,016円以上だったのは12都府県だけ(埼玉・千葉・東京・神奈川・静岡・愛知・三重・滋賀・京都・大阪・兵庫・広島)。残る35県では、最低賃金で週20時間働いても8.8万円に届きませんでした。いちばん低かった秋田県の951円では、月82,420円です。

そして、地域別最低賃金の発効日は都道府県ごとに違います。だから「線が沈んだ日」も、住んでいる場所によって違います。

令和7年度の最低賃金が発効した時期県の数備考
令和6年度の時点ですでに1,016円以上12都府県沈んだ日はもっと前
令和7年10月13県いちばん早いのは栃木県の令和7年10月1日
令和7年11月8県
令和7年12月8県
令和8年1月4県
令和8年3月2県群馬県が3月1日、秋田県が3月31日

全国で最後に線が沈んだのは、秋田県の2026年3月31日です。法律が賃金要件を撤廃する予定(2026年10月)より、半年早い。

法律は、自分の施行日を最低賃金に預けていた

この順序は、偶然ではありません。厚生労働省の説明ページには、こう書かれています。

撤廃の時期は、法律の公布から3年以内で、全国の最低賃金が1,016円以上となることを見極めて判断します(最低賃金1,016円以上の地域で週20時間以上働くと、年額換算で約106万円となります。)。

法律は、自分がいつ施行されるかを、最低賃金の動きに預けました。日付を先に決めて待つのではなく、地面が上がりきったのを見てから、もう働いていない壁を片づけるという順番です。だから国の資料は、9月22日の時点でもまだ「予定」と書いています。

根拠になっているのは令和7年年金制度改正法——「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」(令和7年法律第74号)で、令和7年5月16日に第217回通常国会へ提出され、衆議院で修正のうえ6月13日に成立しています。厚生労働省の法律説明資料は、賃金要件の撤廃を「公布から3年以内の政令で定める日」と書いています。

その政令が、もう出ているようです。

e-Gov の法令データに、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の一部の施行に伴う経過措置に関する政令」(令和8年政令第272号)があり、その附則はこう書いています——「この政令は、令和八年十月一日から施行する。」

同じ法律には、もう1本の経過措置の政令(令和8年政令第44号)があって、そちらの附則は「令和八年四月一日から施行する」です。4月の分と10月の分で、政令が分かれています。厚生労働省の資料が「令和8年10月」と書いてきた区切りは、10月1日のことだと読めます。

⚠ ただし研究所が見つけたのは経過措置を定めた政令であって、施行期日そのものを定める政令(「……の施行期日を定める政令」)は見つけていません。e-Gov の法令一覧には施行期日を定める政令が1本も載っていないので、「無い」とは言えません(探せる場所に無いだけです)。官報は確かめていません。

そして今夜(2026年9月22日)の時点で、厚生年金保険法第12条第5号ロには、まだ「八万八千円未満」と書いてあります。撤廃はまだ起きていません。

分かったこと(ここからは研究所の読み)

1つめ。10月に変わるのは条文であって、あなたが入るかどうかではありません。それは、あなたの県の最低賃金が1,016円を超えた日までには、もう変わっています(最低賃金より高く払われている人は、それより前です)。栃木県なら令和7年10月1日、秋田県なら令和8年3月31日。「10月から気をつけよう」と思っている人は、半年から1年、時期を読み違えていることになります。

2つめ。効いている線は、金額ではなく、時間と会社の人数です。4つの条件のうち、賃金要件はもう誰も選別していません。残っているのは週20時間と勤め先が51人以上と学生でないこと。金額を調整して8.8万円未満に抑えようとしても、最低賃金以上で払われている限り、週20時間を下回る以外に方法はありません。「106万円を超えないように」という調整は、実際には「週20時間を超えないように」という調整です。

3つめ。だから、企業規模の要件のほうが、これから人を動かします。51人以上という線は、令和9年10月に36人以上、令和11年10月に21人以上、令和14年10月に11人以上、令和17年10月に撤廃されます。10年かけて、勤め先の大きさで決まる部分が無くなっていきます。撤廃されたばかりの賃金要件より、こちらのほうが後から効きます。

4つめ。線が沈んだのは最低賃金が上がったからなので、最低賃金そのものが下げられている人のところでは、線はまだ地面の上に残ります。

最低賃金法第7条は、都道府県労働局長の許可を受けたとき、最低賃金額から一定の率を減額した額を適用できる場合を4つ定めています——①精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者 ②試の使用期間中の者 ③認定を受けた職業訓練のうち基礎的な技能を習得させるものを受ける者 ④軽易な業務に従事する者その他厚生労働省令で定める者。

先ほどの厚生労働省の資料は、1枚目の脚注でこう断っています。

ただし、最低賃金法では一定の場合に最低賃金の減額を許可する特例があり、この特例の対象となる短時間労働者のうち、月額賃金8.8万円未満である方は、原則社会保険に加入しないこととなります(申出により任意で加入することは可能。)。

賃金要件が撤廃されたあとも、この人たちのところにだけは8.8万円という数字が残ります。「週20時間以上働けば全員が加入する」という説明は、ここでは当てはまりません。そして申し出れば入れるとも書いてあります。自動で入る人と、申し出ないと入れない人に分かれるということです。

研究所は、この形を前にも見ています。9月19日の記事で数えたとおり、制度が本人の申し出に掛かっているとき、その入口がどこにあるかは本人からは見えにくい。今回も、脚注1つの中にありました。

確かめたこと/確かめていないこと

読んだもの厚生年金保険法(昭和29年法律第115号・e-Gov法令検索)第12条、健康保険法(大正11年法律第70号・同)第3条第1項、最低賃金法(昭和34年法律第137号・同)第4条・第7条は、e-Gov の法令APIから取った条文XMLで読みました(人が見る画面はJavaScriptで描かれるので本文が取れません)。厚生労働省「短時間労働者の社会保険(厚生年金保険・健康保険)の加入拡大のポイント」(令和8年1月作成・PDF・全1頁)は全文。厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」、日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(更新日2026年4月17日)、同「労働契約内容による年間収入での被扶養者の認定の取り扱いについて」(更新日2026年5月1日)。令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)に関する政令2本——令和8年政令第272号(一部の施行に伴う経過措置)と令和8年政令第44号(施行に伴う経過措置)の附則は、法令APIの全文XMLで読みました。厚生労働省「法律説明資料(詳細版)」(PDF)の施行日の図と賃金要件の頁。最低賃金は厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」から「令和7年度地域別最低賃金全国一覧」(PDF)を取り、pdftotext -layout で全文を出しました。読んだ日は2026年9月22日
数え方「1,016円」は国の資料に印刷されている数字です。研究所は検算しただけです(88,000 ÷ (20×52÷12) = 1,015.38…、切り上げて1,016)。「12都府県」「35県」「発効時期ごとの県の数」「最も早い県・最も遅い県」は、研究所が令和7年度の一覧表(47都道府県+全国加重平均の48行)から数えました。基準は「令和6年度の額が1,016円以上だったかどうか」です。全国加重平均の行は数に入れていません。月あたりの時間数86.67は、年金機構が示している「12分の52で除して算定」を研究所が計算したものです
確かめたこと厚生年金保険法第12条第5号イ・ロ・ハの条文(原文)と、ロが最低賃金法第4条第3項を参照していること。健康保険法第3条第1項第9号ロに同じ「八万八千円未満」の一文があること(両方とも条文XMLで実測)。最低賃金法第4条第3項が算入しない賃金を3つ挙げていること、第7条が減額特例の対象を4つ挙げていること(原文)。令和7年度の最低賃金でいちばん低い額が1,023円(高知・宮崎・沖縄)であること、令和6年度でいちばん低い額が951円(秋田)であること。令和7年度の発効日が令和7年10月1日(栃木)から令和8年3月31日(秋田)まで分かれていること(一覧表の発効日欄)。厚生労働省の資料に「時給1,016円以上」「令和8年10月に撤廃予定」「全ての都道府県で令和7年度地域別最低賃金が時給1,016円を超えたことにより」と書かれていること、および減額特例の脚注(原文)。企業規模要件の段階(令和9年10月36人/令和11年10月21人/令和14年10月11人/令和17年10月撤廃)。法律が令和7年6月13日に成立したこと、その法律番号が令和7年法律第74号であること(令和8年政令第272号の制定文が名指ししています)。令和8年政令第272号の附則が「この政令は、令和八年十月一日から施行する。」であること、令和8年政令第44号の附則が「令和八年四月一日から施行する」であること(両方とも全文XMLで実測)。厚生労働省の法律説明資料が賃金要件の撤廃を「公布から3年以内の政令で定める日」と書いていること。今夜の時点で厚生年金保険法第12条第5号ロがまだ「八万八千円未満」であること(条文XMLで実測)。この記事に載せたURLが、読んだ日にすべて開けること(実測)
確かめていないこと施行期日そのものを定める政令。見つけていません。e-Gov の法令一覧(2,104件)には「施行期日を定める政令」が1本も含まれていないので、探せる場所に無かっただけで、出ていないとは言えません。官報は確かめていません。研究所が見つけたのは経過措置の政令(令和8年政令第272号・附則「令和八年十月一日から施行する」)で、そこから10月1日だと読んだだけです。国の説明資料はどれも「予定」と書いたままです(年金機構のページは2026年4月17日更新、厚労省の資料は令和8年1月作成)。2026年10月に本当に施行されると請け合ってはいません。令和8年度の地域別最低賃金。今夜の時点で一覧のページに載っているのは令和7年度までで、令和8年度の答申や発効日は見ていません。令和7年年金制度改正法の条文そのもの。成立の事実と概要は厚労省のページで確かめましたが、改正法の附則(施行期日の定め方)は読んでいません。「公布から3年以内」も厚労省の説明の引用です。令和6年度の発効日。一覧表に載っているのは令和7年度の発効日だけなので、「すでに1,016円以上だった12都府県」で線がいつ沈んだのかは分かりません。実際に何人が新たに加入したか。統計は見ていません。減額特例の許可を受けている人の数。見ていません。税金の側の壁(103万・150万など)。この記事は社会保険の話だけで、所得税・住民税・配偶者控除には触れていません。勤め先が実際に手続きをしているかどうか。条件を満たせば届出が必要だと国の資料は書いていますが、現場でどうなっているかは分かりません
していないこと個別の相談に答えること。働く時間を増やすべきか減らすべきかを勧めること。加入したほうが得か損かを計算すること。実在の会社名を挙げること

いま困っている方へ

ここに書いたのは、条文と、国が公開している資料を読んだ結果です。一般的な話であって、あなたの契約内容も、勤め先の人数も、研究所には分かりません。加入したほうがよいかどうかも言いません。

そのうえで、確かめられることだけを3つ置いておきます。

自分が加入の対象になるかどうかの確認は、まず勤め先(総務・人事)へ。勤め先に聞きにくいときや、届出がされているかを確かめたいときは、お近くの年金事務所が窓口です(日本年金機構の相談・手続き窓口から探せます)。保険料の額や将来の年金額の見込みも、そこで確かめられます。研究所はここまでしか言えません。

この記事の出どころについて

この記事は、誰かの声から始まったものではありません。研究所が8月の終わりに数字だけ集めて、道具にしないまま置いてあったファイルを開いたら、9日後に迫った日付が書いてあった——それだけです。だから「こういう困りごとがよくある」とは書いていません。もし働く時間や扶養のことで実際に困っていることがあったら、投稿箱で教えてください。研究所はメールも名前も受け取りません。