読みもの / 整理と仮説
復職の前に「何時に迎えに行くか」を決めなければならないのに、決めるための物差しがどこにも見当たりません。探してみたら、時刻を決めている法令が1本も見つかりませんでした。市町村の認定が決めているのは「1日11時間まで」という長さの上限だけで、それを1日のどこに置くかは書かれていません。時間帯を決めているのは、保護者と園が結ぶ契約のほうです——法律にそう書いてあります。
そして最低基準のほうは、いまも「保育時間は、一日につき八時間を原則とし」と書いています。11時間という数字も「延長」という語も、この基準には1度も出てきません。国は2つの数字を持っていて、どちらも時刻ではありません。
公開されている掲示板に、来年から復職する人の書き込みがありました。時短勤務にするかフルタイムにするかを迷っていて、どちらにするかでお迎えの時刻が2時間ほど変わる——だから他の人が何時に迎えに行っているかを教えてほしい、という内容です。返信がたくさん付いていました。
この人が困っているのは、保育園に入れるかどうかでも、制度が使えるかどうかでもありません。自分で決めなければいけないのに、決めるための物差しが自分の中に無いことです。だから人に聞いています。
研究所はこれを「気持ちの問題」と読みませんでした。物差しが無いのだとしたら、それは本当にどこにも無いのかを先に確かめられます。この記事はその結果です。
保育園に子どもを預けるには、市町村から「保育の必要性」の認定を受けます。そのときに保育必要量というものが一緒に決まります。よく「保育標準時間」「保育短時間」と呼ばれているものです。条文はこうなっています。
保育必要量の認定は、保育の利用について、一月当たり平均二百七十五時間まで(一日当たり十一時間までに限る。)又は平均二百時間まで(一日当たり八時間までに限る。)の区分に分けて行うものとする。
(子ども・子育て支援法施行規則 第4条第1項)
読んで、3つ気づきました。
1つめ。どちらも「まで」です。11時間も8時間も上限であって、「この時間は預けられる」という保証ではありません。
2つめ。数字が2つあって、蓋が2枚あります。「1月あたり平均275時間まで」と「1日あたり11時間まで」は別の蓋です。1日11時間を22日ぶん使うと242時間で、月の蓋には当たりません。実際に効くのは1日のほうですが、条文の書き方としては月が主で、日が括弧の中です。
3つめ。時刻がどこにもありません。何時から何時まで、という文字が1つも出てきません。それどころか「保育標準時間」「保育短時間」という語も、1度も出てきません(施行規則の全文を検索しました。近いのは利用者負担額の別表に1度だけ出てくる「短時間認定保護者」で、これは200時間の区分と認定された保護者のことです)。条文にあるのは、275時間の区分と200時間の区分だけです。
つまり認定は、1日の長さの上限を決めているだけで、その長さを1日のどこに置くかを決めていません。朝7時から夕方6時までの11時間なのか、朝9時から夜8時までの11時間なのかは、この条文からは出てきません。
探したところ、はっきり書いてある条文が1つだけありました。市町村がやる事業を並べた条文の中です。少し長いので、括弧の中がいちばん大事だと思って引きます。
…その保育認定子どもが、やむを得ない理由により利用日及び利用時間帯(当該教育・保育給付認定保護者が特定教育・保育施設等…と締結した特定保育…の提供に関する契約において、当該保育認定子どもが…特定保育を受ける日及び時間帯として定められた日及び時間帯をいう。)以外の日及び時間において…保育(保育必要量の範囲内のものを除く。以下この号において「時間外保育」という。)を受けたものに対し…費用の全部又は一部の助成を行う…事業
(子ども・子育て支援法 第59条第2号)
「利用時間帯」とは、保護者と園が結んだ契約の中で定められた時間帯のことだ、と法律が定義しています。探していた答えはここにありました。時刻を決めているのは、国でも市町村でもなく、園と保護者のあいだの契約です。
そして、その契約の時間帯の外で預かってもらうことを、この条文は「時間外保育」と呼んでいます。ふだん「延長保育」と呼ばれているものです。これは給付ではなく市町村がやる事業で、費用の一部を市町村が助成します。認定された11時間の内側にいるかどうかと、契約の時間帯の内側にいるかどうかは、別の話です。
もう1つ、別の法令が別の答えを持っていました。保育所が満たさなければならない最低基準(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準・1948年12月29日公布)の第34条です。
保育所における保育時間は、一日につき八時間を原則とし、その地方における乳幼児の保護者の労働時間その他家庭の状況等を考慮して、保育所の長がこれを定める。
(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準 第34条)
この条文は「保育時間」——子ども一人が保育を受ける時間——の話であって、園が何時から何時まで開いているか(開所時間)の話ではありません。そして決めるのは保育所の長だと書いてあります。
この基準の全文で「開所」という語を数えたら、本則には1回も出てきませんでした。3回とも附則の同じ1条の中です。
第九十四条の事情に鑑み、当分の間、一日につき八時間を超えて開所する保育所において、開所時間を通じて必要となる保育士の総数が…(中略)…保育士と同等の知識及び経験を有すると認める者を…保育士とみなすことができる。
(同 附則第96条)
保育士が足りないときの人数の数え方の特例で、8時間を超えて開けている保育所を対象として名指ししている条文です(8時間を超えて開けること自体を特例としているわけではありません)。この基準が8時間を超える開所に触れているのは、本則ではなく、この附則の1条だけです。開所時間そのものを定めた規定は、本則に1つもありません。11時間という数字も、延長という語も、本則・附則を通して0件です。
ここまでを1つの表にします。この3つは矛盾しているのではなく、別の法令が別の問いに答えています。探していた「何時に迎えに行けばいいか」に答えているのは、いちばん下の1つだけです。
| 層 | 何を決めているか | 誰が決めるか | 時刻を決めているか |
|---|---|---|---|
| 最低基準(省令) | 保育時間は1日8時間を原則 | 保育所の長 | いいえ(長さの原則) |
| 保育の認定(2015年〜) | 1月275時間まで・1日11時間まで/1月200時間まで・1日8時間まで | 市町村 | いいえ(長さの上限) |
| 契約 | 利用日および利用時間帯 | 保護者と園 | はい |
お金の側にも1つ数字があります。国の公定価格(園に払われる額)についての事務連絡に、こう書かれています。
公定価格上、2・3号認定子どもを受け入れる施設については、土曜日も含め、基本的に11時間開所を想定しており…
「想定」であって、義務ではありません。これは園がいくら受け取るかの前提であって、あなたの子が何時に帰れるかの前提ではありません。
法令が時刻を決めていないなら、実際の分布を見るしかありません。国の調査研究事業の報告書(令和5年度・こども家庭庁)に、園に直接きいた数字がありました。
先に分母を書きます。この調査が配ったのは「延長保育事業の補助を受けている」全国の保育所・幼保連携型認定こども園・保育所型認定こども園 21,750件で、返ってきたのが8,118件(回収率37.3%)、時刻の設問に答えたのが8,090件です。延長保育をやっていない園は、最初から入っていません。だから下の数字は「全国の保育園の姿」ではなく、「延長保育をやっている園の姿」です。
| きいたこと | いちばん多い答え | 次に多い答え | 分母 |
|---|---|---|---|
| 開園時刻(朝の延長を含めた時刻) | 7時00〜14分 71.5% | 7時30〜44分 19.1% | 8,090 |
| 閉園時刻(夕・夜の延長を含めた時刻) | 19時00〜14分 57.7% | 20時以降 14.6% | 8,090 |
開園のいちばん多い答えと、閉園のいちばん多い答えを並べると、朝7時に開いて夜7時に閉まる=12時間になります(同じ園がその組み合わせだとは、この表からは言えません。別々の設問の最頻値を並べただけです)。それでも、認定の上限が1日11時間であることと見比べると、園が開いている幅のほうが、1人の子が使える上限より長いのがふつうだと分かります。はみ出したぶんが、上で見た「時間外保育」——延長保育です。
では、その延長はいつ始まるのか。同じ調査に「夕・夜の延長保育の開始時刻」があり、18時00〜14分が48.9%でいちばん多くなっています(分母は延長を実施している7,297)。ただしこの設問には注意が要ります。調査票には「延長保育開始時刻:2・3号の保育短時間のお子さんを対象とした開始時刻」と書かれていて、短時間認定の子を基準にきいています。それでも18時台が半分近くを占めていることは、園の側の区切りが18時に集まっていることを示していそうですが、研究所はこの設問だけで「通常保育は18時までである」とは言えないと考えました。
それでも、ここまでで1つだけ確かなことがあります。「18時」は法令の数字ではありません。どの法令にも出てきません。多くの園がそこで区切っているという事実があるだけです。
元の書き込みの人は「時短にするか」で迷っていました。時短にすると275時間の区分(11時間)ではなく200時間の区分(8時間)になるのか、という問いです。
施行規則を読んだ範囲では、就労を理由とする場合にどちらの区分になるかの線は、書かれていませんでした。この条文には例外が2つあるのですが、就労はそのどちらにも入っていません。
| どの事由か | 区分の扱い |
|---|---|
| 妊娠中・出産後間がない/災害の復旧/児童虐待・配偶者からの暴力(第1条の5 第2号・第5号・第8号) | 本人が200時間の区分を申請した場合を除き、275時間の区分とする(第4条第1項ただし書き) |
| 疾病・障害/求職活動/育児休業中の継続利用(同 第3号・第6号・第9号) | 市町村が適当でないと認めれば、区分に分けないで認定してよい(第4条第2項) |
| 就労(同 第1号)/介護・看護(第4号)/就学・職業訓練(第7号)ほか | どちらにも書かれていない=本文どおり2つの区分に分けて認定する(分ける線は条文に無い) |
就労を理由に預ける人がいちばん多いはずなのに、その線だけが条文に無い——というのが、研究所が読んだ範囲で見えたことです。実務では市町村ごとに「1か月あたり何時間以上なら275時間の区分」という線が決められていますが、それがどこに書かれているかまでは、今回たどれていません。これは「無い」ではなく「研究所が確かめられていない」です。ここはお住まいの市町村の保育の窓口で確かめてください。
研究所の読みはこうです。迷っている順番が、逆になっています。
「何時に迎えに行けるか」は、認定の話ではなく、契約の話でした。認定が275時間の区分(1日11時間まで)でも、園が18時に閉めるなら18時です。逆に200時間の区分(1日8時間まで)でも、その8時間を1日のどこに置くかは園との相談です。認定は「どれだけ長く」に答え、契約が「何時から何時まで」に答えます。
だから、時短にするかどうかを先に決めなくても、入る園の開園・閉園の時刻と、契約でどの時間帯になるか、延長保育があるか(あるなら何時から何時までで、いくらか)を先に確かめれば、そのうえで勤務の側を決められます。順番が逆だと、決められない材料で決めようとすることになります。
そして、「何時が普通か」という問いには、国は答えを持っていません。持っているのは「1日8時間を原則」という1948年の言葉と、「1日11時間まで」という2015年からの上限の、2つだけです。どちらも長さで、どちらも時刻ではありません。他の人に聞くしかなくなるのは、聞く相手を間違えているからではなく、答えを持っている場所が制度の側に無いからでした。
この形は、研究所が0歳の睡眠時間の目安を辿ったときと同じでした。あのときは、数字が無いのは「言えないから」でした。今回は、時刻が無いのは「1つに決めないと決めてあるから」に見えます。園ごとに違ってよい、という設計です。そう設計されたものを外から1つに読もうとすれば、当然、見つかりません。
| 読んだもの | 子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号)第59条(e-Gov法令検索)。子ども・子育て支援法施行規則(平成26年内閣府令第44号)第1条の5・第4条・第20条(同)。児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(昭和23年厚生省令第63号)第34条・附則第94条・第96条(同)。いずれも e-Gov の法令API から全文XMLを取得して読みました。こども家庭庁「子ども・子育て支援新制度に関するFAQ(公定価格)Ver.25」(令和6年7月29日時点版・PDF)。こども家庭庁 令和5年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「延長保育の利用実態等の把握に関する調査研究 調査報告書」(令和6年3月・PDF)。読んだ日は2026年9月13日 |
|---|---|
| 数え方 | 施行規則の全文XML(816KB)に文字列検索をかけ、「保育標準時間」0件・「保育短時間」0件・「短時間」1件(利用者負担額の別表に出てくる「短時間認定保護者」)・「延長」0件・「時間外」1件(延長保育とは別の、幼稚園の教育時間外の預かりについて)を確認。なお同じ施行規則に「開所」5件・「十一時間」5件がありますが、いずれも第1条(認可外の施設についての基準)の中で、保育所の話ではありません。最低基準の全文XML(268KB)では「開所」3件(すべて附則第96条の中)・「保育時間」2件(第34条の見出しと本文)・「十一時間」0件・「延長」0件を確認 |
| 確かめたこと | 施行規則第4条第1項が「一月当たり平均二百七十五時間まで(一日当たり十一時間までに限る。)」と「平均二百時間まで(一日当たり八時間までに限る。)」の2区分であること、同項ただし書きが第1条の5第2号・第5号・第8号を、同条第2項が第3号・第6号・第9号を名指ししていて、第1号(就労)がどちらにも入っていないこと(条文の実測)。法第59条第2号が「利用時間帯」を契約で定められた時間帯と定義していること、その外を「時間外保育」と呼び、市町村が費用を助成する事業としていること(条文の実測)。最低基準第34条の本文と、附則第96条の「当分の間、一日につき八時間を超えて開所する保育所において」という書きぶり(条文の実測)。公定価格のFAQに「基本的に11時間開所を想定しており」とあること(原文の実測)。調査報告書の開園時刻・閉園時刻・夕夜の延長保育開始時刻の分布と、その分母(21,750件に配って有効回収8,118件=37.3%、時刻の設問はn=8,090・延長の設問はn=7,297)、および調査票の設問文(原文の実測)。この記事に載せたURLが、読んだ日にすべて開けること(実測) |
| 確かめていないこと | 就労を理由とする場合に、275時間の区分と200時間の区分をどこで分けるのか。施行規則には書かれていませんでしたが、それがどの通知・どの市町村の規則に書かれているかまではたどれていません。「国が示していない」とは言えません。市町村ごとの開園・閉園時刻の分布。調べようとすると自治体名を出すことになるので、今回は国の調査の全国集計だけを見ました。延長保育を実施していない園がどれくらいあるか(今回の調査の分母には入っていません)。延長保育の料金(市町村と園で違い、今回は見ていません)。認定の区分によって園の開いている時間帯が実際に変わるかどうか。1948年の第34条が、その後どの改正を受けたか(条文のいまの姿だけを読み、改正の履歴は追っていません) |
| していないこと | 個別の相談に答えること。時短にすべきか・フルタイムにすべきかを勧めること。実在の自治体名や園名を挙げること。書き込みの文章を再掲すること |
ここに書いたのは、国が公開している法令と調査を読んだ結果です。一般的な話であって、あなたの勤め先とお住まいの市町村の事情は研究所には分かりません。
認定の区分(275時間か200時間か)と、その申請の期限は、お住まいの市町村の保育の窓口で確かめられます。園の開園・閉園の時刻と、延長保育があるかどうか・何時までか・いくらかは、園に直接きくのがいちばん早いはずです。法令の側にその答えは置かれていません。
そして、もし迷いの中身が「他の人より早く/遅く迎えに行くのは、どうなのか」であれば、そこに国の基準はありません。最低基準が言っているのは「1日8時間を原則とし、保育所の長が定める」までで、その地方の保護者の労働時間その他家庭の状況等を考慮してという一文が付いています。もともと、一律に決めない形で書かれています。
この記事は、公開されている掲示板の書き込み1件から始まりました。書き込みの文章そのものは残していません(研究所が持っているのは1行の要約と元のURLだけです)。同じことで困っていたら、投稿箱で教えてください。研究所はメールも名前も受け取りません。