読みもの / 整理と仮説
医院の看板に書ける診療科名は、医療法施行令が名前を並べています。法令を読んだ範囲では、「小児科」を掲げる医師に経歴や資格を求める条は見当たりませんでした(経歴の審査が書かれているのは、大臣の許可が要る「麻酔科」だけ)。だから看板の診療科名は、「内科・小児科」の医院でも「小児科」だけの医院でも、医師が小児科の専門医かどうかを示していません。国のガイドラインが看板に求めているのは、主たる診療科を医師1人に原則2つ以内にし、大きく書くことで、それも「望ましい」です。専門医かどうかは科名とは別の決まりの側にあり、医院が広告してよい事項であるとともに、都道府県に報告することになっています。
公開されている相談に、こういう声がありました。生後4か月の子の親が、出産した病院で「内科も入っている小児科は、小児科の先生ではなく内科の先生だから、小児科だけの医院を選んで」と言われた。近いのは内科も入った医院のほうなので、そこにかかりたい。いつからなら内科の入った医院でもよいのか——という内容です。
この問いには2つの部分があります。
医院が看板やウェブサイトに書ける診療科名は、医療法 第6条の6第1項が2種類に分けています。
前条第三項第二号の規定による診療科名は、医業及び歯科医業につき政令で定める診療科名並びに当該診療科名以外の診療科名であつて当該診療に従事する医師又は歯科医師が厚生労働大臣の許可を受けたものとする。
(医療法 第6条の6第1項)
| どんな科名か | 医師に何が求められているか | |
|---|---|---|
| 政令で定める科名 | 「内科」「外科」と、「精神科」「アレルギー科」「リウマチ科」「小児科」「皮膚科」などの名前が並ぶ。「内科」「外科」には「小児」「循環器」などの語を組み合わせてよい(施行令 第3条の2第1項第1号) | 医療法・施行令・施行規則を読んだ範囲では、掲げる医師の経歴や資格の条件は書かれていない |
| 大臣の許可を受けた科名 | 施行規則が手続きを書いているのは「麻酔科」だけ(施行規則 第1条の10) | 申請書に麻酔の経歴を書き、2年以上の修練か、2年以上麻酔の業務に就き、全身麻酔を300症例以上のどちらかを満たすと許可される。看板には許可を受けた医師の名前も一緒に書く(法 第6条の6第4項) |
つまり、看板に載る科名のうち、医師の経歴を国が審査してから掲げるものは麻酔科だけです。「小児科」は政令の名前の側にあり、法令の上では、名前を掲げることと、医師がどんな修練を積んだかが結び付けられていません。これは「内科・小児科」の医院にも、「小児科」だけの医院にも、同じように当てはまります。
組み合わせ方の決まりはあります。施行規則 第1条の9の4は、意味の通らない組み合わせを禁じていて、「小児科」に「小児・老人・老年・高齢者」を付けることはできません。国の医療広告ガイドラインには「小児外科」「小児眼科」「小児皮膚科」「小児科(新生児)」などの例が並んでいます(14〜15頁)。
科名をいくつ並べてよいかに、法令の上限はありません。厚生労働省の医療広告ガイドライン(令和8年3月30日最終改正)は、こう書いています。
医療機関においては、当該医療機関に勤務する医師又は歯科医師一人に対して主たる診療科名を原則2つ以内とし、診療科名の広告に当たっては、主たる診療科名を大きく表示するなど、他の診療科名と区別して表記することが望ましい。
(医療広告等ガイドライン 第3-2「診療科名(第2号関係)」ア(ⅲ)・16頁)
読むときの注意は2つです。
看板の側で国が書いているのは、ここまででした。「内科を一緒に掲げる医院の医師は内科の医師だ」という線は、読んだ法令とガイドラインのどこにもありません。逆に「小児科だけを掲げる医院の医師は小児科の専門医だ」という線もありません。
では、医師が小児科の修練を積んだかどうかはどこで分かるのか。国の決まりの上では、「専門医」という資格の側にあります。
そして、医院が自分から書かなくても見られる道があります。医療法 第6条の3は、病院・診療所に、決められた事項を都道府県知事へ報告し、同じことを書いた書面を医院で閲覧できるようにすることを義務にしています(書面の閲覧に代えて、電子の方法で示すこともできる。同条第3項・施行規則 第1条の3)。都道府県知事は、報告を受けた内容を公表します(同条第5項)。その事項のうち、医療従事者の専門性については、国の告示がこう決めています。
(専門医機構や届け出た団体の認定に係る)医師及び歯科医師の専門性に関する資格の種類及びその種類毎の人数とする。
(平成19年厚生労働省告示第53号 第8条。施行規則 別表第一 第二の項第一号ロ(1)=診療所)
報告された事項は、2024年4月から、国の医療情報ネット(ナビイ)にまとめて載っています(それまでは都道府県ごとの仕組みだった)。分かるのは医院ごとの「資格の種類と人数」で、どの医師が持っているかまでではありません。
医療法・施行令・施行規則の本則で、「小児」と「歳」「年齢」が同じ条に出てくるのは、施行令 第3条の2(「小児」「老人」などの組み合わせの語の区分を書いた所)だけでした。小児科が何歳までを診るか、何歳からなら内科でよいか、という線は、看板の決まりには書かれていません。
ですから、相談の後半——いつから内科の入った医院でもよいか——は、決まりを読んでも答えが出ない問いです。研究所はここに答えません。
相談の人が受け取った助言は「内科が入っていれば内科の先生」という看板の読み方でした。決まりを読むと、看板の科名だけではその読み方は支えられません。ただし、決まりが支えていないことと、実際に外れていることは別の話です。「内科・小児科」の医院に小児科の専門医が少ないかどうかを研究所は数えていないので、助言が経験から来ている可能性は残っています。看板の科名は、医師の修練と結び付けずに掲げられる名前で、主たる科を大きく書くことも「望ましい」にとどまります。
研究所の読みはこうです。知りたいこと(その医師が子どもを診る修練を積んでいるか)と、目に入る情報(看板の科名)が、別の決まりで動いている。修練のほうは、専門医という団体の認定と、都道府県への報告の側に置かれていて、診療科名からは分からない。専門医は広告してよい事項なので、医院が看板やウェブサイトに自分で書くことはありますが、書くかどうかは医院しだいです。だから、手がかりが診療科名しか無いとき、私たちは科名の並びに、決まりが言っていないことまで読み込みやすい——「内科が入っているから」「小児科だけだから」——形になっている、と考えています。
看板の読み方で医院を選り分ける前に、同じ問いを、決まりが答えを置いている場所で聞き直すことはできます。それが次の節です。
| 読んだもの | 医療法(昭和23年法律第205号)第6条の3・第6条の5・第6条の6(e-Gov法令検索)。医療法施行令(昭和23年政令第326号)第3条の2(同)。医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第1条の2の2・第1条の3・第1条の9の2の2・第1条の9の4・第1条の10(同)。いずれも e-Gov の法令API から全文を取得し、法令IDは法令一覧APIから引きました。厚生労働省「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針(医療広告等ガイドライン)」(令和8年3月30日最終改正・48頁)14〜16頁・21〜22頁(PDFの頁で17〜19・24〜25)と、同「Q&A」Q3-5(医療法における病院等の広告規制についてのページに掲載)。「医療に関する広告が可能となった医師等の専門性に関する資格名等について」(令和5年2月17日)。「医療機能情報提供制度参照条文(抜粋)」に載っている平成19年厚生労働省告示第53号 第8条と、「医療機能情報提供制度実施要領」(医療機能情報提供制度についてのページに掲載) |
|---|---|
| 数え方 | 法令の全文XMLを <Article> ごとにタグを外して空白を潰し、本則だけを対象にした。3本の本則で「専門医」「標榜」はいずれも0件(同じ方法で「診療科名」は法5か条・令1か条・規則21か条で拾えた)。施行規則のうち法第6条の6第1項(大臣の許可)を引く条は3つで、許可の手続きを書いているのは第1条の10(麻酔科)だけ。「小児」と「歳」「年齢」が同じ条にあるのは施行令 第3条の2だけ(同じ方法で「年齢」は法2か条・令1か条・規則6か条で拾えた)。PDFは pdftotext -layout で読んだ。走査は研究所のリポジトリの research/data/shonika-kanban.py |
| 確かめたこと | 看板に書ける科名が、政令の科名と大臣の許可を受けた科名の2種類であること。「小児科」が政令の科名にあること。大臣の許可の手続き(経歴・修練)が施行規則に書かれているのは麻酔科だけであること。ガイドラインが、主たる診療科名を医師1人に原則2つ以内・大きく表示することを「望ましい」としていること。専門医が専門医機構と学会の認定で、広告するときは認定団体を書くこと。小児科が専門医機構の基本的な診療領域に入っていること。診療所も専門医の資格の種類と人数を都道府県に報告し、書面を閲覧に供する義務があること(電子の方法に代えることもできる)。その報告が2024年4月から医療情報ネットにまとめられていること(厚生労働省のページの記述) |
| 確かめていないこと | 「内科・小児科」の医院と「小児科」だけの医院で、小児科の専門医がいる割合が違うか(数えていない。もらった助言は、この実態から来ているのかもしれない)。医療情報ネットの個々の医院の頁で、専門医の欄がどう見えるか(特定の医院を開かないため、1件も開いていない。国の「医療情報ネットのオープンデータ」の診療所の施設票(2026年6月1日時点・62列)も見出しを見たが、専門医の列は無かった)。報告が実際にどこまで埋まっているか。医師法・医師の臨床研修の側に、科を掲げることに関わる決まりがあるか(読んでいない)。診療報酬の「小児」の年齢(別の制度の線なので混ぜなかった)。麻酔科のほかに、いま大臣の許可を受けている科名があるか(施行規則に手続きが無いことまでを確かめた)。看板の決まりがいつからこの形か(平成20年の改正で科名が組み替えられたことはガイドラインにあるが、それより前は読んでいない) |
| していないこと | 何か月から内科の入った医院にかかってよいかに答えること。特定の医院や医師の良し悪しを言うこと。相談の文章を再掲すること。専門家の回答を引くこと |
ここに書いたのは、国の法令・告示・ガイドラインを読んだ結果です。一般的な話であって、お子さんの体のことや、どの医院がよいかは研究所には分かりません。
医院に専門医がいるかどうかは、医院が都道府県に報告している事項にあります。国の医療情報ネット(ナビイ)で医院を探すと見られるはずです(報告事項は施行規則 別表第一・告示第53号 第8条。研究所は個々の医院の頁を開いていません)。同じことを書いた書面は、医院でも閲覧できることになっています。ただし、書面に代えて電子の方法で示している医院もありえます(医療法 第6条の3第1項・第3項)。医院のウェブサイトに書かれているなら、「日本専門医機構認定 小児科専門医」「日本小児科学会 小児科専門医」のように、認定した団体の名前と一緒に書かれているはずです。
何か月から、どちらにかかればよいかは、決まりには書かれていません。かかろうとしている医院に電話で「何か月の子を診ていますか」と聞くか、乳児健診や予防接種のときに、いまかかっている医師や市町村の保健師に相談してください。夜間や休日に子どもの具合が心配なときは、こども医療でんわ相談 ♯8000 があります(研究所の♯8000の時間帯の記事に、開いている時間の調べがあります)。
この記事は、公開されている相談1件から始まりました。相談の文章そのものは残していません(研究所が持っているのは1行の要約と元のURLだけです)。相談に付いていた専門家の回答も、この記事では引いていません。同じことで困っていたら、投稿箱で教えてください。研究所はメールも名前も受け取りません。