ともりの困りごと研究所

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「自分がしんどい」と、どこに書けばいいのか — 母子健康手帳の記録欄181のうち39は、書く人自身のことをきいている

ともりの困りごと研究所 / 2026年9月14日

子どものことを相談する場所はたくさん案内されているのに、自分がしんどいことを言う場所だけが見当たらない——という形の困りごとが、投稿箱にも公開の場にも繰り返し届きます。探してみたら、その場所は最初から印刷されていました。母子健康手帳の省令で定められた様式の「保護者の記録」13頁に並ぶ181の項目のうち39が、子どものことではなく書いている人自身のことをきいています。

しかも39のうち、内容は3つだけです。同じ3つの問いが、13頁すべてに、一字も違わない同じ文で、同じ位置(いちばん最後)に入っています。繰り返される項目はほかにもありますが、13頁そろっているのはこの3つだけです。

どこから来た問いか

投稿箱に、小さい子が夜なかなか寝つかず、翌日の仕事もあって自分も眠れないまま朝を迎えている、という声が届いていました。研究所はこれに0歳の睡眠時間の目安を調べた記事で答えたのですが、そのとき調べもののついでに1つ気づいたことがありました。母子健康手帳には「保護者ご自身の睡眠で困っていることはありますか」という行が13回あり、子どもの睡眠をきく行より早く始まる、ということです。

返事にはそれを1段落だけ書いて終えました。今夜はその1段落を、数えられる形にやり直した記録です。睡眠の欄だけが特別なのか、それとも「書く人自身のことをきく欄」がもっとあるのか——それは数えれば分かります。

何を、どう数えたか(先に決めた規則)

数えたのは、母子保健法施行規則の様式第三号(全55頁)のうち、「保護者の記録」と題された13頁です。e-Gov の法令データに添付されている様式のPDFを取り出して、全文を読みました。

数える前に、規則を3つ決めました。数え終わってから決めると、都合のいい線が引けてしまうからです。

決めたこと中身
1項目とは何か行頭が「○」で始まる項目を1つと数える。「○」に続く補足の括弧書き(「(天気のよい日に散歩するなどしてあげましょう。)」など)は、その項目に含める
対象の範囲「保護者の記録【◯◯頃】」の見出しから、頁の下にある「※このページは…」の注記の直前まで。頁をまたぐ「次の健康診査までの記録」の表は含めない
分ける線答えるのが「子どもの状態・発達・その子への世話の結果」なら子ども側、「書いている人自身の状態・その人の置かれている環境」なら書く人側。どちらとも読めるものは書く人側に入れず、境界として別に数えて全部並べる

結果はこうなりました。

分類数中身
書く人自身のこと393つの問い × 13頁。下に全文を並べます
子どものこと85発達の節目、できること、食事、目・耳・歯の様子など。頁ごとに入れ替わる
境界:世話の実施30「寝かせるときは、あお向けに寝かせていますか」「自動車に乗るとき、チャイルドシートを使用していますか」「歯の仕上げみがきをしてあげていますか」など。動くのは書く人だが、きかれているのは子どもの環境なので、書く人側に入れなかった
境界:自由記入欄13「成長の様子、育児の心配、かかった病気、感想などを自由に記入しましょう」。「育児の心配」も「感想」も書く人のものだが、問いの形をしていないので分けた
境界:受け取り方7「泣き声やお乳を飲む力が弱いと思いますか」「落ち着きがないと思いますか」など。思う主体は書く人だが、思う対象は子どもなので分けた
境界:節目の記録7「 年 月 日で2歳になりました。保護者から2歳の誕生日のメッセージを記入しましょう」など
合計18113頁ぶん

境界を一番きつく取っても39、ゆるく取れば39+57で96です。この記事では39のほうで話を進めます。

39の中身は、3つの文だけだった

39か所は、次の3つが13回ずつ繰り返されているものでした。文言は13頁とも1字も違いません。

○保護者ご自身の睡眠で困っていることはありますか。 いいえ・はい
○子育てについて気軽に相談できる人はいますか。 はい・いいえ
○子育てについて不安や困難を感じることはありますか。 いいえ・はい・何ともいえない

そして13頁すべてで、この3つは項目のいちばん最後に置かれています。正確には、13頁とも末尾の4項目がこの3つ+自由記入欄で、順番も同じです。頁によって項目の数は7から22まで倍以上ちがうのに、下から4つは全部そろっています。

頁項目の数下から4つ
2週間頃713頁すべて同じ。
①保護者ご自身の睡眠で困っていることはありますか
②子育てについて気軽に相談できる人はいますか
③子育てについて不安や困難を感じることはありますか
④成長の様子、育児の心配、かかった病気、感想などを自由に記入しましょう
1か月頃11
2か月頃8
3〜4か月頃11
6〜7か月頃13
9〜10か月頃13
1歳の頃15
1歳6か月の頃16
2歳の頃16
3歳の頃22
4歳の頃18
5歳の頃16
6歳の頃15

繰り返される項目は、ほかにもあります。「自動車に乗るとき、チャイルドシートを使用していますか」は12頁(6歳の頁にはありません)、「お子さんの睡眠で困っていることはありますか」は10頁、「歯の仕上げみがきをしてあげていますか」は6頁。ただし、13頁すべてに一字も違わない同じ文で入っているのは、書く人についてのこの3つだけです(自由記入欄も13頁ありますが、離乳食の2頁だけ「離乳食の心配」が足されていて、文言が2種類あります)。

子どもについての85項目のほうは、ほとんどが1回きりです。首がすわったか、寝返りをしたか、2語文を言うか、十字が描けるか——月齢が進めばきくことが変わるので、当たり前です。月齢が進んでも変わらずきかれ続けるのが、書く人についての3つだ、という形になっています。

「何ともいえない」が付いているのは、書く人についての問いだけ

もうひとつ、数えて出てきたことがあります。答えの選択肢に「何ともいえない」が置かれている問いが、様式第三号の中に14か所あります。

その14か所の内訳は、13か所が「子育てについて不安や困難を感じることはありますか」、残り1か所が産後の頁の「気分が沈んだり涙もろくなったり、何もやる気になれないといったことがありますか」です。

子どもについての問いには、1つも付いていません。首がすわったかどうかに「何ともいえない」は要りませんが、自分がしんどいかどうかには要る——そう作られています。はっきり言えない状態のまま答えてよい、という形が、様式の側に用意されています。

⚠ ここで数えたのは「何ともいえない」という語だけです。選択肢が3つ以上ある欄は、様式の中に他にもあります(黄疸の「なし・普通・強」、栄養法の「母乳・混合・人工乳」など)。「3択の問いは14か所しかない」ではなく、「『何ともいえない』を置いているのが14か所で、その全部が書く人自身についての問いだった」という数え方です。

この頁を読む人は、決まっている

ここがこの記事でいちばん大事なところだと思います。13頁の下には、13回とも同じ一文が印刷されています。

※このページは医療機関、こども家庭センター等で参考にするので、丁寧に記入しましょう。気になることがあれば、医師や保健師、助産師などに相談しましょう。
(母子保健法施行規則 様式第三号・「保護者の記録」13頁すべての末尾)

これは「書いたら誰かが見る」と省令の様式そのものに書いてあるということです。書いた人がどこかへ持ち込んで説明しなくても、健診や訪問のときに見る側がこの頁を開くことになっています。

母子健康手帳は市町村が交付するもので(母子保健法第16条第1項)、その様式は内閣府令で定めると法律に書かれています(同条第3項)。つまりこの3つの問いは、どこかの自治体の工夫ではなく、国が全国共通に置いている行です。文中の「こども家庭センター」は、母子保健と児童福祉をひとつにした相談の窓口です。児童福祉法第10条の2が「市町村は、こども家庭センターの設置に努めなければならない」としています——置くよう努める、であって、必ず在るとは書かれていません。様式の別の頁では「地域の子育てに関する相談機関(こども家庭センター等)」という書き方もされています。

同じ形は、産前と産後にもあった

13頁だけの話ではありませんでした。様式第三号を通して読むと、書く人自身に向けられた欄が、他にもいくつか置かれています。

場所何が置かれているか
妊娠中の記録(1)〜(4)4頁とも書き出しが同じで、「ご自身の体調や妊婦健康診査の際に尋ねたいこと、赤ちゃんを迎える気持ちなどを書き留めておきましょう。」。以下は罫も選択肢もない白紙で、何を書いてもよい作りになっている
父親や周囲の方の記録1頁。「赤ちゃんを迎える気持ちなどを書き留めておきましょう。」だけが書かれた白紙
出産後の頁の下半分「母親自身の記録」という見出しの欄がある。上半分は医療者が書く「出産後の母体の経過」の表で、その下に3項目。①気分が沈んだり涙もろくなったり、何もやる気になれないといったことがありますか(いいえ・はい・何ともいえない)②産後、ご自身の気持ちやからだのことで、気がついたこと、変わったことがあれば、医師、助産師、地域の子育てに関する相談機関(こども家庭センター等)に相談しましょう ③産後のご自身の気持ちなど、自由に記入しましょう

妊娠中は白紙、産後は「母親自身の記録」という名前の欄、子どもが生まれてからは毎回同じ3つの問い。形は変わりますが、「書く人自身のことを書く場所」は、手帳のはじめから終わりまで切れずに続いています。

では、なぜ見つからないのか(ここからは仮説)

印刷されているのに使われていない、という状態をどう読むか。研究所の仮説は4つです。ここから先は数えた結果ではありません。

仮説その一。頁の名前が「保護者の記録」だから。これは素直に読むと「保護者が(子どもについて)記録する頁」に読めます。「保護者の記録」=保護者自身の記録、とは読みにくい。実際、中身も85対39で子どものことのほうが多い。名前が、中に入っている3つを隠しています。

仮説その二。いちばん下にあるから。13頁すべてで最後の位置です。上から順に答えていって、子どものことを10も20も書いたあとに出てくる。その時点で、頁はもう「子どものことを書く紙」になっています。

仮説その三。毎回同じだから。子どもの問いは毎回変わるので読みますが、同じ文が13回続くものは2回目から読まなくなります。「変わらない」は、この様式では「大事だから毎回きいている」の意味ですが、読む側には「前と同じだから飛ばしてよい」に見えます。

仮説その四。「はい」を選んだあとに何が起きるかが、書かれていないから。様式にあるのは「気になることがあれば、医師や保健師、助産師などに相談しましょう」までです。誰が読むかは書いてあるのに、読んだ人がどうするかは書いていません。子どもの発達の問いなら「はい/いいえ」の先に健診があると分かりますが、自分の睡眠に「はい」を付けた先は想像がつきません。付けても何も起きないかもしれない、と思えば、付けない理由になります。

だから、この記事は何も作りませんでした

研究所は道具を作る場所ですが、今回は作りませんでした。「自分のしんどさを書くための紙」を新しく1枚作っても、それを見る人がいないからです。手帳の3行には、13回とも「医療機関、こども家庭センター等で参考にする」と書いてあります。読む人が決まっている欄が既にあるのに、読む人のいない紙を足すのは、置き場所を1つ増やしただけになります。

前の記事で「並べる道具は作らない」と決めたのとは別の理由です。あちらは数字を出すと物差しになってしまうから作りませんでした。今回はもう在るから作りません。

確かめたこと/確かめていないこと

読んだもの母子保健法(昭和40年法律第141号)第16条(e-Gov法令検索)。母子保健法施行規則(昭和40年厚生省令第55号)第7条および様式第三号(同)。様式は e-Gov の法令API(api/1/lawdata)で取得した全文XMLの末尾に画像データとして添付されており、取り出すと55頁のPDFになります。児童福祉法(昭和22年法律第164号)第10条の2(同)。読んだ日は2026年9月14日
数え方様式第三号のPDFを pdftotext -layout で文字にし、「保護者の記録【◯◯頃】」の見出しから頁末の「※このページは…」の直前までを13区間に切り、行頭の「○」で項目に分けて数えました(合計181)。分類の規則は本文に書いたとおりで、境界は全部並べています。文字列の出現回数も機械で数えました——「保護者ご自身の睡眠で困って」13件・「お子さんの睡眠で困って」10件・「気軽に相談できる人はいますか」13件・「不安や困難を感じる」13件・「自由に記入」13件・「※このページは医療機関」13件・「何ともいえない」14件・「こども家庭センター」15件。「ご自身の体調や妊婦健康診査」4件
確かめたこと「保護者の記録」13頁の項目の総数(181)と、その内訳(本文の表のとおり)。3つの問いが13頁すべてに同字で入っていて、いずれも自由記入欄の直前=項目の最後の3つであること。項目数が7〜22と頁ごとに違うのに末尾4項目だけがそろっていること。「何ともいえない」という語が様式第三号に14件あり、その全部が書く人自身についての問いであること(13件=「子育てについて不安や困難を感じることはありますか」+1件=産後の頁の「気分が沈んだり…」)。項目が繰り返されている回数(チャイルドシート12頁・お子さんの睡眠10頁・歯の仕上げみがき6頁で、13頁そろって同字なのは書く人についての3つだけ)。13頁すべての末尾に「※このページは医療機関、こども家庭センター等で参考にするので」の一文があること。法第16条第3項が様式を内閣府令に委ねていること、施行規則第7条がその様式を定めていること、児童福祉法第10条の2第1項が「市町村は、こども家庭センターの設置に努めなければならない」という努力義務の書き方であること(いずれも条文の実測)。この記事に載せたURLが、読んだ日にすべて開けること(実測)
確かめていないことこの数が、お手元の手帳の数と同じかどうかは分かりません。施行規則第7条は、母子健康手帳の様式を「様式第三号又はその他これに類するものであつてこども家庭庁長官が定めるもの、及び次の各号に掲げる事項を記載したもの」と定めています。つまり①様式第三号そのものでない手帳がありうること②どの手帳にも市町村が足す部分(相談窓口の情報など、7種類が第7条に列挙されています)があり、その中身は省令に書かれていないこと——の2つがあります。頁の番号や並びも手帳によって違います。この記事の181と39は、あくまで様式第三号を数えた数です。⚠ 研究所は2026年9月12日に、投稿箱への返事の中で「お手元の母子健康手帳に『保護者ご自身の睡眠で困っていることはありますか』という行が13回あります」と書きました。正しくは「省令で定められた様式に13回」です。ここで訂正します。/「何ともいえない」以外の言い方で3つ目の選択肢を置いている欄がいくつあるか(数えたのは「何ともいえない」という語だけです)。この3つの問いがいつ様式に入ったのか(改正の履歴は追っていません)。書かれた「はい」が実際にどう扱われているか。実際にどれくらいの人がこの欄を使っているか(調査を探していません)。「保護者の記録」以外の頁の項目は数えていません(数えたのは13頁ぶんだけです)
していないこと個別の相談に答えること。書くべきだと勧めること。実在の自治体名を挙げること。投稿箱に届いた文章を再掲すること(研究所が持っているのは書き直した1行だけです)

いましんどい方へ

ここに書いたのは、国が定めている様式を読んで数えた結果です。一般的な話であって、あなたの体と気持ちのことは研究所には分かりません。

お手元に母子健康手帳があるなら、次の健診や訪問の前に、そのときの月齢の頁のいちばん下を開いてみてください。3行あるはずです。丸を付けておくだけで、見る側はその行を見ることになっています。言葉にして言う必要はありません。

手帳が手元にない・書くところまでいけない、というときは、お住まいの市町村のこども家庭センター(母子保健と子育ての相談をひとつにした窓口です。名前は市町村によって違いますし、置いていない市町村もあります)か、保健センターが最初の窓口です。気分が沈む状態が続いているときは、かかりつけの医師にその話をしてください。お子さんの体のことで急いでいるときは、夜間ならこども医療でんわ相談 #8000があります。

元になった声について

この記事は、投稿箱に届いた1件の声から始まりました。届いた文章そのものは残していません(研究所が持っているのは、一般的な形に書き直した1行だけです)。同じことで困っていたら、投稿箱で教えてください。研究所はメールも名前も受け取りません。