読みもの / 整理と仮説
保育園の「保育短時間」の1日8時間までに通勤の時間が入るのかは、子ども・子育て支援法にも施行規則にも書かれていません(どちらも、附則まで含めて「通勤」という語を一度も使っていません)。読んだ国の通知(令和2年最終改正の版)が通勤に触れるのは、「保育標準時間」の11時間という長さを決めた理由を述べる一文だけです。短時間の人について通勤を名指ししているのは、2015年の事業者向けFAQ(第7版)でした。通勤を含めると利用が8時間を超えることが常態である場合などに、「市町村が認める場合」は標準時間として扱って「差し支えない」、という書き方です。通勤を数えるかどうかを決めるのは市町村で、それを国が書いているのは法令ではなく、改訂の止まったFAQでした。
公開されている掲示板に、こういう声がありました(2020年)。保育短時間で子どもを預けていて、園の短時間の時間帯は朝9時から。出勤は9時15分で、間に合うように8時45分に園へ連れて行っていた。園長から「来るのが早い。それなら標準時間に切り替えて」と言われて切り替えたが、切り替えたあとも担任に「今日は早い」と言われた——という内容です。
この人が困っているのは、働く時間は8時間に収まっているのに、通う時間のぶんだけ園の時間帯からはみ出すことでした。今夜は別に、勤務地が変わる日ができて通勤が片道1時間15分に延び、保育園の送迎でさらに30分かかるようになった、という声もありました。
どちらにも通じる問いは、保育の時間の枠(短時間の8時間・標準時間の11時間)は、通勤の時間を数えてくれるのか、です。保育の時間の枠は法令と国の通知で決まっているので、そこを読みました。11時間が「何時から何時まで」ではなく「長さ」であることは、お迎えの時刻の記事に書いたので、ここでは繰り返しません。
保育の時間の枠そのものは、子ども・子育て支援法施行規則 第4条第1項にあります。
保育必要量の認定は、保育の利用について、一月当たり平均二百七十五時間まで(一日当たり十一時間までに限る。)又は平均二百時間まで(一日当たり八時間までに限る。)の区分に分けて行うものとする。
(子ども・子育て支援法施行規則 第4条第1項)
前の区分が「保育標準時間」、後ろの区分が「保育短時間」です。この条は保育の利用の時間で区切っていて、働く時間でも通勤の時間でもありません。
法律と施行規則の本則を全部読み、「通勤」という語を探しました。どちらも0件でした(附則まで含めた全文でも0件。同じ方法で、法律では「労働」が34件、施行規則では「一日当たり十一時間」が2件拾えています)。法令は、働く時間(施行規則 第1条の5第1号の「労働すること」)と、保育の利用の時間(第4条)の2つを書いていて、その間をつなぐ通勤の時間については何も言っていません。
国が市町村に出している通知「教育・保育給付認定等並びに特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業者の確認に係る留意事項等について」(平成26年9月10日・表紙に令和2年9月10日最終改正)には、「通勤」が1回だけ出てきます。
「保育標準時間認定」の保育必要量については、原則的な保育時間を8時間とした上で、休憩時間や通勤時間も考慮し、新制度施行前における保育所の開所時間である1日11時間までの利用に対応するものとして、1か月当たり平均275時間(最大292時間・最低212時間)とすること。
(同通知 3「保育必要量の認定」(2)ア(ア))
読むときの注意は1つです。この一文は、標準時間の「11時間」という上限を置いた理由を述べています。「市町村は通勤の時間を数えて認定すること」という決まりではありません。同じ通知が、働く時間による区分の線として書いているのは「1か月当たり120時間以上」なら原則として標準時間、未満なら原則として短時間(3(2)イ(ア))で、ここにも通勤は出てきません。
短時間の「8時間」のほうは、同じ通知で「原則的な保育時間である1日当たり8時間までの利用に対応する」とだけ書かれていて、通勤の時間を見込んだという言葉はありません。
短時間の人について通勤に触れた国の一文は、事業者向けFAQ【第7版】(平成27年3月)の「保育所に関すること」Q10 にありました。このFAQは2015年のままで、改訂は止まっています。問いは3つの場面を並べています。
| 問いの場面 | FAQの答え | 通勤に触れているか |
|---|---|---|
| ① 月の時間では短時間になるが、1日8時間以上働く日がある(例:1日8時間・月14日) | 1日8時間以上となるような就労を常態としている場合で、短時間認定が適当でないと市町村が認めるときは、標準時間を受けることも可能 | 触れている。働く時間が8時間未満でも、通勤時間等で利用が8時間を超えると市町村が認めるなら①として扱ってよい(①なので「常態としている」の条件も付く) |
| ② 1日の働く時間は8時間未満だが、勤務の時間帯の関係で、園が決めた短時間の時間帯(例:9時〜17時)からはみ出す(例:13時〜18時の勤務) | 常態としてはみ出さざるを得ないと市町村が認める場合は、標準時間を受けることも可能(ただし園の時間帯が利用者の就労実態を踏まえて適切に設定されていることが前提) | 触れていない。「勤務時間帯との関係から」と書くだけ |
| ③ シフト制などで、月の中で預ける時間帯がまちまち | いちばん早い開始といちばん遅い終了の差が8時間以上で、市町村が認める場合は、標準時間を受けることも可能 | 触れている。差が8時間以内でも、通勤時間等を含めて8時間以上になると市町村が認めるなら③として扱ってよい |
通勤に触れた部分を、そのまま引きます。
なお、就労時間が8時間に満たない場合であっても、通勤時間等により利用時間が8時間を超えると市町村が認める場合については①に該当するものとし、1か月の中で最も早い就労開始時刻と最も遅い就労終了時刻の差が8時間以内の場合であっても、通勤時間等を含めた場合、その差が8時間以上となると市町村が認める場合については③に該当するものと取り扱って差し支えないとしています。
(事業者向けFAQ【第7版】「保育所に関すること」Q10)
この一文から言えることは3つです。
同じQ10の直前のQ9は、短時間の人の時間帯(何時から何時までか)は施設で定めることとされている、という前提で問いを立てています。声の人の「9時から」は、園が決めた時間帯でした。
市町村は、働いていることを就労証明書で確かめます。いまの標準的な様式(施行規則の様式第一号)を読むと、No.4 に「本人就労先事業所」の住所(実際に働いている勤務先の住所。複数あれば主たる所)を書く欄はありますが、「通勤」という語は様式にも記載要領にも0件でした。
それまで国が示していた就労証明書(簡易版)には「通勤手段」の欄がありました。2023年に標準的な様式を示したときの事務連絡(令和5年5月29日)は、その欄を削った理由をこう書いています。
通勤手段 本人の申請により確認可能と考えられる項目のため削除。
(事務連絡「就労証明書の標準的な様式について(周知)」令和5年5月29日・別紙「主な修正事項について」)
つまり国の整理では、勤め先が証明するのは「どこで・何時間働くか」までで、通勤のことは保護者が市町村へ出す申請の側で分かる、という形です。ただ、保育の申請書の様式は市町村ごとで、施行規則 第2条第1項が申請書に書くこととして挙げている事項にも通勤はありません。通勤の時間を書く欄があるかどうかは、町の様式によります。
認定を受けたあとに、法令が保護者に求めている届出は2つあります。1つは毎年の届出(法 第22条・施行規則 第9条・いわゆる現況届)で、「労働又は疾病の状況」を届け、書類(就労なら就労証明書)を出します。就労証明書には勤務先の住所の欄があるので、市町村は年に1回、勤務先を知ることになります。もう1つは変わったときの届出(施行規則 第15条)ですが、その「届出事項」は申請書の第1号・第2号(保護者と子の氏名・居住地・連絡先など)で、勤務先や通勤は入っていません。(町が独自に届けを求めているかは確かめていません。)
通勤が延びて、いまの区分(短時間・標準時間)では足りなくなったときは、認定の変更を申請する道があります(法 第23条第1項・施行規則 第11条)。申請書には「事由の状況の変化その他の当該申請を行う原因となった事由」を書くことになっています。区分を変えるのを途中で始めるのは、保護者の申請です(市町村が職権で変える道もありますが(法 第23条第4項)、勤務地の変更を年の途中で知る届出は、国の規則にはありません)。
標準時間でも、施行規則 第4条は「一日当たり十一時間までに限る」と書いています。働く時間8時間に休憩1時間、往復の通勤と送迎が2時間を超えると、11時間に収まりません。超えたぶんは、契約で決めた日と時間帯の外の保育(延長保育=法 第59条第2号の「時間外保育」。保育必要量の範囲内のものは除く)になり、料金や時刻は市町村と園によります(お迎えの時刻の記事)。通知の文は、「原則的な保育時間を8時間とした上で、休憩時間や通勤時間も考慮し」、新制度の前の保育所の開所時間である11時間に合わせた、という並びです。11時間を超える通勤の人をどうするかは、通知には書かれていません。
声の人は、働く時間は短いのに、通う時間のぶん園の短時間の時間帯の始まりより前にはみ出していました。表の②の形です。
研究所の読みはこうです。保育の時間の枠を決める人と、時間帯を決める人と、通勤を数えるかを決める人が、それぞれ別にいる。枠(8時間・11時間)は国の規則、短時間の時間帯(何時から)は園、通勤を数えて区分を変えてよいかは市町村です。3つをつなぐ国の一文——通勤を数えても差し支えない——は、読んだ範囲では、法令にも読んだ通知にも見当たらず、2015年で改訂の止まったFAQの「なお」の中にだけありました。
しかもその「なお」が通勤を名指ししているのは、8時間を超える形(①)と、時間帯がまちまちな形(③)だけです。声の人のように、長さは8時間に収まっているのに、通う時間のぶん時間帯の端からはみ出す形(②)は、国のFAQでさえ通勤の語で書いていない側にあります。通勤のせいではみ出していても、通勤の話として持ち込む言葉が国の文書の上に無い——だから声の人の話は、園の中の「来るのが早い」という時間帯の話のまま続いたのではないか、と考えています。
| 読んだもの | 子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号)第22条・第23条・第59条(e-Gov法令検索)。子ども・子育て支援法施行規則(平成26年内閣府令第44号)第1条の5・第2条・第4条・第9条・第11条・第15条・様式第一号(同)。いずれも e-Gov の法令API から全文を取得。通知「子ども・子育て支援法に基づく教育・保育給付認定等並びに特定教育・保育施設及び特定地域型保育事業者の確認に係る留意事項等について」(平成26年9月10日・表紙に令和2年9月10日最終改正)。こども家庭庁の事業者向けのページに掲載の事業者向けFAQ【第7版】(平成27年3月)「保育所に関すること」Q4・Q9・Q10。こども家庭庁「「就労証明書」に関する情報」の頁に掲載の就労証明書(標準的な様式・記載要領つき)と事務連絡(令和5年5月29日)。比べるために、子ども・子育て支援制度のページに掲載の公定価格に関するFAQ 第32版(令和8年7月24日時点版)と、保育政策関係資料集(令和7年10月) |
|---|---|
| 数え方 | 法令は全文XMLの本則だけをタグを外して空白を潰し、PDFは pdftotext -layout で読んで同じく空白を潰して数えた。「通勤」は法0・施行規則0・通知1・FAQ第7版3(Q4に1・Q10に2)・就労証明書0・事務連絡R5.5.29 1。同じ方法で、法では「労働」34件、施行規則では「一日当たり十一時間」2件、通知とFAQでは「保育標準時間」17件・20件が拾えた。走査は研究所のリポジトリの research/data/tsukin.py |
| 確かめたこと | 保育の時間の枠(月平均275時間・1日11時間まで/月平均200時間・1日8時間まで)が施行規則 第4条にあること。法と施行規則の本則に「通勤」が無いこと。通知が標準時間の11時間の理由として「休憩時間や通勤時間も考慮し」と書くこと。就労による区分の原則が月120時間であること。FAQ第7版 Q10 が、通勤を含めて8時間を超える場合などに市町村が認めれば標準時間として扱って「差し支えない」と書き、通勤を名指しするのは①と③だけであること。就労証明書の様式に勤務先の住所の欄はあるが「通勤」が無いこと。2023年の事務連絡が「通勤手段」を「本人の申請により確認可能」として削ったこと。施行規則 第15条の届出事項に勤務先が入っていないこと。区分の変更が保護者の申請によること |
| 確かめていないこと | Q10 の扱いが、いまの国の文書に引き継がれているか。読んだ通知(令和2年最終改正の版)には無かった。その版より後に通知が改正されているかも確かめていない。公定価格のFAQ 第32版は料金のFAQで、文字の走査では「通勤」は0件だったが、表の列が混ざるPDFなので、無いとは言い切らない。市町村が実際に通勤を数えているか、どれくらいの町が数えているか(国の一覧は探していない。町の案内を開くと名指しになるため開いていない)。②の「勤務時間帯との関係から」に通勤が含まれるか。保育の申請書に通勤の欄がある町の数。町が勤務先の変更を独自に届けさせているか。市町村が職権で区分を変えるのがどんなときか(法 第23条第4項は読んだが、運用は読んでいない) |
| していないこと | どの区分にすべきかを判定すること。特定の園や町の扱いを言うこと。声の文章を再掲すること |
ここに書いたのは、国の法令・通知・FAQを読んだ結果です。一般的な話であって、あなたの町がどう扱うかは研究所には分かりません。
通う時間のせいで、いまの区分(短時間・標準時間)では足りないと感じたら、相談する先は園ではなく、住んでいる市町村の保育の担当の窓口です。区分を決めるのは市町村で、変えるには認定の変更の申請をします(子ども・子育て支援法 第23条第1項)。そのとき、勤務の時刻と、家から園・園から勤め先までにかかる時間を、具体的に書いて持っていくと話が早いはずです。国は2015年のFAQで、通勤の時間を含めて8時間を超えることが常態である場合などに、市町村が認めれば標準時間として扱って差し支えないと書いています(事業者向けFAQ【第7版】Q10・こども家庭庁の事業者向けのページの「事業者向けFAQ」に全文のPDF)。窓口でこのFAQの名前を出すことはできますが、このFAQは2015年から改訂が止まっていて、同じ扱いがいまの国の文書に引き継がれているかは研究所は確かめていません。それで必ず認められるわけでもありません。
短時間の「何時から何時まで」は園が決めています。区分の話と時間帯の話は、聞く先が違います。
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