ともりの困りごと研究所

読みもの / 整理と仮説

切迫流産で長く休むと、育児休業給付の「12か月」は足りなくなるのか — さかのぼる2年は、休んだぶん延びる(最長4年)

ともりの困りごと研究所 / 2026年10月10日

育児休業給付金をもらうには、休業を始める日の前の2年間に、給料が出た日が11日以上(足りない月は80時間以上)の月が12か月以上要ります。給料が出た日がそれに届かない月は数に入りません。ただ雇用保険法は同じ条の中で、その2年間に病気やけがなどで続けて30日以上給料が出なかった人は、その日数を2年に足した期間で数える(最長4年)と書いています(第61条の7第1項)。休んだぶん、さかのぼって数える期間が延びるしくみです。妊娠中の安静で休んだ期間がこの「病気やけがなど」に当たるかを決めるのはハローワークで、省令の列挙にも職員向けの要領にも「妊娠」の語は無く、国のQ&Aが「妊娠」を名指ししているのは、同じしくみを持つ別の給付(育児時短就業給付)の答えの中だけでした。

どこから来た問い

公開されている掲示板に、こういう投稿がありました(2026年8月)。職場の同僚が妊娠していて、切迫流産と診断されて2か月ほど自宅で療養している。職場は立ち仕事が中心で、座ってできる仕事は無い。それでも本人は近く出勤したいと言っていて、理由は「育休の手当をもらうのに必要な出勤の日数が足りない」ことと、「保育園に入るときに必要な働いた実績が足りない」ことだった——という内容です。投稿した人の問いは「切迫流産の状態で働けるものなのか」でした。

研究所は、働いてよいか・休むべきかには答えません。それは体の判断で、診ている医師にしか分かりません。今夜調べたのは、出勤したい理由として挙がっていた1つめ——休んでいると、育児休業給付の「日数」は本当に足りなくなるのか——です。決まりの側で答えが出る問いなので、法令と国の案内を読みました。2つめの保育園の話は、別の決まりなので今夜は扱っていません(下の「確かめていないこと」)。

要件は「出勤の日数」ではなく「給料が出た日」の月

育児休業給付金の要件は、雇用保険法 第61条の7第1項にあります。休業を始めた日の前の2年間に、「みなし被保険者期間」が通算して12か月以上あること、です。その数え方は第14条を当てはめるように書かれていて、1か月として数えるのは「賃金の支払の基礎となつた日数が十一日以上」の月、それが12か月に足りないときは「賃金の支払の基礎となつた時間数が八十時間以上」の月も数えます(第14条第1項・第3項)。

法令の言葉は「出勤」ではなく「賃金の支払の基礎となつた日数」です。国のパンフレット「育児休業等給付の内容と支給申請手続」(2026(令和8)年8月1日改訂版)も、要件を「賃金支払基礎日数が11日以上ある(ない場合は賃金の支払いの基礎となった時間数が80時間以上の)完全月が12か月以上あること」と書いています(10頁)。休んで給料が出た日が11日(80時間)に届かない月は、ここに数えられません。投稿にあった「日数が足りない」は、この意味ではその通りです。

ただし、さかのぼる2年は、休んだぶん延びる

同じ第61条の7第1項の「二年間」には、括弧書きが付いています。

当該育児休業を開始した日前二年間(当該育児休業を開始した日前二年間に疾病、負傷その他厚生労働省令で定める理由により引き続き三十日以上賃金の支払を受けることができなかつた被保険者については、当該理由により賃金の支払を受けることができなかつた日数を二年に加算した期間(その期間が四年を超えるときは、四年間))に、みなし被保険者期間が通算して十二箇月以上であつたときに、支給単位期間について支給する。
(雇用保険法 第61条の7第1項・抜粋)

つまり、給料が出た日が11日(80時間)に届かない月は12か月の数には入らないが、続けて30日以上給料が出なかったなら、その日数ぶん数える期間が過去へ延びる、という作りです。条件は2つ——理由が「疾病、負傷その他厚生労働省令で定める理由」であること、そして続けて30日以上給料が出なかったこと。延びるのは最長で4年までです。パンフレットも同じ10頁の注記で「疾病、負傷等やむを得ない理由により引き続き30日以上賃金の支払を受けることができなかった期間がある場合は、当該理由により賃金の支払いを受けることができなかった期間を2年に加算することができます(合計で最長4年間)」と書いています。

⚠ 延びた先に、給料が出ていた月が無ければ数は増えません。たとえば勤め始めて間もない人は、さかのぼる期間を延ばしても、その中に数えられる月が無いことがあります。延びるのは「数える期間」で、「月の数」そのものではありません。

なお同じ条の第4項には、それでも12か月に満たない人について、数え始める日を産前休業(労働基準法第65条第1項)を始めた日に置き換える定めもあります(どんな場合に使われるかの運用は読んでいません)。

足せる理由の列挙に、「妊娠」の語は無い

「その他厚生労働省令で定める理由」は、雇用保険法施行規則 第101条の29が並べています。

どこに並んでいる理由
法 第61条の7第1項(本文)疾病、負傷
施行規則 第101条の29一 出産/二 事業所の休業/三 事業主の命による外国における勤務/四 教育訓練休暇/五 官民の人事交流の交流採用/六 前各号に掲げる理由に準ずる理由であつて、公共職業安定所長がやむを得ないと認めるもの

法と施行規則の本則で「妊娠」を数えると、法は2件、施行規則は6件ありましたが、どれも育児休業給付金の2年を延ばす理由の列挙の中ではありませんでした(法の2件は、基本手当の受給期間の延長〔第20条〕と教育訓練休暇給付金の条にある「妊娠、出産、育児その他」)。「切迫」は0件です。

一方、厚生労働省の「Q&A~育児休業等給付~」は、育児休業給付金の要件の答え(Q11)で「当該期間中に第1子の育児休業や本人の疾病等により引き続き30日以上賃金の支払を受けることができなかった期間がある場合は、受給要件が緩和され、支給要件を満たす場合があります」と書き、同じしくみを持つ育児時短就業給付の答え(Q81)では「妊娠・出産・育児、疾病・負傷等により30日以上賃金の支払いを受けていない期間がある場合には当該期間を2年間に加算することができます(合計で最長4年間まで)」と書いていました。育児時短就業給付金の2年の括弧書き(法 第61条の12第1項)と、その理由の列挙(施行規則 第101条の44)は、育児休業給付金のものと同じ文です。

ハローワークの職員向けの「雇用保険業務取扱要領」(育児休業給付・令和8年8月版)も読みました。59523ロ「受給要件の緩和」は、認められる理由を(イ)疾病又は負傷 (ロ)出産 (ハ)事業所の休業 (ニ)外国における勤務 (ホ)雇用継続交流採用 (ヘ)準ずる理由と並べ、(ヘ)に当たるものの例として、争議行為・出向・組合専従・親族の看護・育児休業・労働基準法第65条の産前・産後休業・配偶者の海外勤務への同行を挙げていました。ここにも「妊娠」の語は無く、「これ以外の理由で…該当すると思われる事例が発生した場合は本省に照会する」とあります。(同じ要領は、第4項の特例の説明の中で、産前休業の前の「母性保護のための休業」から「体調不良等の私傷病による休暇」を外しています。こちらは数え始めの日の特例の話で、2年を延ばす理由の話ではありません。)

読めることは、ここまでです。妊娠中の安静で休んだ期間は、条文の上では「疾病」か、第6号の「準ずる理由」(公共職業安定所長がやむを得ないと認めるもの)を通ることになるはずで、どちらに当たるか、当たるかどうかを決めるのはハローワークです。国の案内は「妊娠」を名指ししていますが、それは育児時短就業給付の問いへの答えの中でした。

書くのは勤め先の賃金証明書

受給の手続きは、原則として勤め先を通して出します(施行規則 第101条の30)。そのときに勤め先が書く「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」の記載例で、パンフレットは⑫欄(⑦〜⑪欄の参考となること)に書く例として「出産・傷病等で引き続き30日以上賃金の支払がない場合」を挙げています(28頁)。国のQ&A(Q81)も、この賃金証明書には原則2年間ぶんの賃金を書くが、30日以上賃金の支払いを受けていない期間があればそのぶん2年に加算できる、と答えています。給料が出なかった期間は、勤め先がこの証明書に書くことになっています。

なぜ「出勤しないと足りない」と思えてしまうのか(ここからは仮説)

研究所の読みはこうです。要件のいちばん目立つ一文は「2年間に12か月」で、延びるしくみはいつも括弧書きか注記の側にある。法では第61条の7第1項の括弧の中、パンフレットでは要件②の下の小さな注記、Q&Aでは「受給要件が緩和され…満たす場合があります」という言い方です。しかも延ばせる理由の列挙(施行規則)には「妊娠」の語が無く、名指ししている国の一文は、別の給付の問いの中にありました。妊娠中に長く休んでいる人が「自分の休みはこの括弧に入る」と読める場所が、条文にも案内にも、まっすぐには置かれていない。だから「12か月」だけが残り、体が休めと言っている時期に「出勤しないと足りない」と考えてしまう人が出るのではないか、と考えています。

この括弧書きは育児休業給付金だけのものではありません。法の本則で同じ一文(「引き続き三十日以上賃金の支払を受けることができなかつた」)を探すと、基本手当・高年齢受給資格・特例受給資格・教育訓練休暇給付金・介護休業給付金・育児休業給付金・出生時育児休業給付金・出生後休業支援給付金・育児時短就業給付金の少なくとも9つの条にありました(同じ一文で探したので、言い回しの違う条は拾えていません)。

確かめたこと/確かめていないこと

読んだもの雇用保険法(昭和49年法律第116号)第14条・第61条の7・第61条の12 ほか(e-Gov法令検索)。雇用保険法施行規則(昭和50年労働省令第3号)第101条の29・第101条の30・第101条の44 ほか(同)。いずれも e-Gov の法令API から全文を取得。厚生労働省「育児休業等給付について」の頁に掲載のパンフレット「育児休業等給付の内容と支給申請手続」(2026(令和8)年8月1日改訂版・40頁)。厚生労働省「Q&A~育児休業等給付~」(10月10日に開いた・頁に時点の記載なし)Q11・Q81。厚生労働省「雇用保険業務取扱要領」の育児休業給付(R8.8)59523、第4・第5〜第8(R8.4)
数え方法令は全文XMLの本則を条(Article)ごとにタグを外して空白を潰して探し、PDFは pdftotext -layout で読んだ。「引き続き三十日以上賃金の支払を受けることができなかつた」は法の本則の9条に1回ずつ。「妊娠」は法2・施行規則6(陽性対照として同じ方法で「出産」法11・規則39、「疾病」法15・規則13)。「切迫」は法・規則・パンフレット・Q&A・業務取扱要領(育児休業給付)とも0。要領の育児休業給付の章の「妊娠」3件は、どれも育休の延長や回数の話だった。パンフレットに「妊娠」0、Q&Aに7。走査は研究所のリポジトリの research/data/seppaku.py
確かめたこと育児休業給付金の要件が、休業開始日前2年間にみなし被保険者期間12か月以上であること(法 第61条の7第1項)。1か月として数えるのは賃金支払の基礎となった日数11日以上の月、12か月に足りないときは80時間以上の月も(第14条第1項・第3項)。2年間に疾病・負傷・省令の理由で続けて30日以上賃金が出なかった人は、その日数を2年に足す(最長4年)こと。省令の理由(施行規則 第101条の29)に「出産」はあり「妊娠」は無く、第6号に「準ずる理由」があること。国のQ&Aが Q11 で「本人の疾病等」、育児時短就業給付の Q81 で「妊娠・出産・育児、疾病・負傷等」と書くこと。パンフレットの賃金証明書の記入例が⑫欄に「出産・傷病等で引き続き30日以上賃金の支払がない場合」を挙げること
確かめていないこと切迫流産などの妊娠中の安静が、ハローワークで「疾病」と「準ずる理由」のどちらとして扱われているか(職員向けの業務取扱要領の育児休業給付の章〔59523〕にも名指しは無く、詳しくは「50152参照」とあったが、50152 は今夜開いた2冊〔第4・第5〜第8〕には見当たらず、読めていない)。そのときにどんな書類(医師の証明など)が求められるか。給料の一部が出ていた月や、有給休暇・会社の病気休暇で休んだ日の扱い。前の勤め先の月がどこまで数えられるか(第14条第2項は読んだが、運用は読んでいない)。第61条の7第4項(産前休業を始めた日に置き換える定め)がどんな場合に使われるか。投稿のもう1つの理由(保育園に入るときの「働いた実績」)——これは市町村の保育の認定と利用調整の話で、今夜は読んでいない(就労証明書の欄については就労証明書の記事)
していないこと働いてよいか・休むべきかを言うこと。特定の人が受給できるかを判定すること。声の文章を再掲すること

いま困っている方へ

ここに書いたのは、国の法令と案内を読んだ結果です。一般的な話であって、あなたが受給できるかどうかは研究所には分かりません。そして、働いてよいか・休むべきかは、診ている医師に聞いてください。この記事は、その判断に「手当のために出勤しなければ」という理由が混ざっているときに、その理由の中身を確かめるためのものです。

自分の場合に12か月が足りるかは、勤め先の事業所の所在地を管轄するハローワーク(公共職業安定所)に聞くのが確かです。そのとき、いつからいつまで、何の理由で、給料が出ずに休んだかを書いて持っていくと話が早いはずです。延びるしくみは雇用保険法 第61条の7第1項の括弧書きにあり、国のQ&A(Q11・Q81)にも書かれています。手続きは勤め先を通すのが原則なので、勤め先の担当の人にも、給料が出なかった期間を賃金証明書に書いてもらうよう伝えておくとよいと思います。

妊娠中の体調で仕事を軽くしてほしいときの入口(母性健康管理指導事項連絡カードなど)は、「配慮してほしい」の入口の記事にまとめてあります。

元になった声について

この記事は、公開されている掲示板の投稿1件から始まりました。投稿したのは本人ではなく職場の同僚で、本人の事情はその人を通した話です。投稿の文章そのものは残していません(研究所が持っているのは1行の要約と元のURLだけです)。同じことで困っていたら、投稿箱で教えてください。研究所はメールも名前も受け取りません。