読みもの / 整理と仮説
育児・介護休業法の全文と、その施行規則の全文を機械で検索しました。「単身」「赴任」「転勤」「別居」は、どちらにも1件もありません。出てくるのは「同居」だけで、法に1件・規則に14件。そのうち「家に誰がいるか」で請求できるかどうかが変わるのは、深夜業の制限のただ1か所でした。隣に並んでいる所定外労働の制限にも、時間外労働の制限にも、その判定はありません。
そして、送り出す側の条文(第26条)は「配慮しなければならない」と書いていますが、本人がそれを言うための手続きは、法にも規則にも置かれていません。意向を聞くことが義務になっている場面は2つありますが、どちらも子の年齢で決まる場面で、転勤の話が来るときではありませんでした。
週次で集めている束に、単身赴任の家の話が1件ありました。家事・育児・通院・学校行事・家の管理が残った側に集中して、何をどう分担すればいいのかが整理できない——という形です。
先に断っておきます。この1件の出どころは、個人の書き込みではなく、対策をまとめた記事でした。つまり本人の言葉ではありません。研究所はこれを「そういう形の困りごとがあるらしい」以上には使っていません。この記事は、その形が本当なら制度の側はどうなっているのか、を確かめたものです。
研究所が最初に立てた問いは、こうでした。単身赴任という状態は、法律から見えているのか。見えているなら、その状態にある人だけに効く決まりがあるはずです。見えていないなら、それ自体が答えになります。
e-Gov の法令APIから、育児・介護休業法(平成3年法律第76号)と、その施行規則(平成3年労働省令第25号)の全文XMLを取りました。384KBと473KBです。そこに語を投げました。
| 語 | 法(384KB) | 施行規則(473KB) |
|---|---|---|
| 単身/赴任/転勤/転居/別居/遠方 | 6語とも0件 | 6語とも0件 |
| 同居 | 1件 | 14件 |
| 就業の場所 | 2件(第26条の同じ一文の中に2回) | 2件(第69条の7と、その公務員版の第110条) |
「転勤」という語も、法令には無いのでした。法が使うのは「配置の変更で就業の場所の変更を伴うもの」という言い方です。指針(後述)にも「転勤」は0件でした。日常語と法令の語が違うだけの話に見えますが、「単身赴任」のほうは言い換えた先も無かった——ここが違います。
規則の14件を、近くの見出し(条名)ごとに分けて並べます。
| どういう使われ方か | 件数 | どこに |
|---|---|---|
| 子と同居しなくなったことが、申出や請求の終了事由・特別の事情になっている | 12件 | 第5条・第6条・第10条・第19条・第20条・第21条の14・第21条の19・第46条・第54条・第63条 |
| 「家族」の定義(対象家族のほかに同居の親族を含める) | 1件 | 第4条 |
| 同居の家族がいるかどうかで、請求できるかが変わる | 1件 | 第60条(法第19条第1項第2号を受けたもの) |
12件のほうは、子が自分と一緒に住まなくなった(養子に出たなど)、あるいは子を育てていた配偶者が子と住まなくなった(婚姻の解消など)という向きで、休業や請求をそこで終わらせたり、もう一度申し出られるようにしたりするためのものです。働いている本人が家を離れる向きの話は、1件もありませんでした。
残る1件が、この記事の中心です。
法第19条は、深夜(午後10時から午前5時まで)に働かせないよう請求できる制度です。小学校に上がる前の子を育てている人が対象で、条文はこう続きます。
事業主は、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者であって次の各号のいずれにも該当しないものが当該子を養育するために請求した場合においては、午後十時から午前五時までの間(略)において労働させてはならない。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、この限りでない。
一 当該事業主に引き続き雇用された期間が一年に満たない労働者
二 当該請求に係る深夜において、常態として当該子を保育することができる当該子の同居の家族その他の厚生労働省令で定める者がいる場合における当該労働者
三 (略)厚生労働省令で定めるもの
(育児・介護休業法 第19条第1項)
第2号の「厚生労働省令で定める者」は、規則第60条で次のように決まっています。
法第十九条第一項第二号の厚生労働省令で定める者は、同項の規定による請求に係る子の十六歳以上の同居の家族であって、次の各号のいずれにも該当する者とする。
一 (略)深夜において就業していない者(深夜における就業日数が一月について三日以下の者を含む。)であること。
二 負傷、疾病又は身体上若しくは精神上の障害により請求に係る子を保育することが困難な状態にある者でないこと。
三 六週間(多胎妊娠の場合にあっては、十四週間)以内に出産する予定であるか又は産後八週間を経過しない者でないこと。
(育児・介護休業法施行規則 第60条)
条文の書きぶりを、そのまま読みます。この第2号にあたるのは、「16歳以上」で「同居」している「家族」であって、しかも「深夜に働いていない」「病気や障害で子を見られない状態ではない」「出産の前後ではない」の3つを全部満たす人がいる場合です。ここでいう「家族」は、誰でもよいわけではありません。括弧で「法第二条第五号の家族をいう」と絞られていて、その中身は対象家族(配偶者・父母・子・配偶者の父母)か、同居の親族です(法第2条第4号・第5号、規則第4条)。同居している人でも、親族でなければここに入りません。
配偶者が離れて暮らしているなら、その配偶者は「同居の家族」ではありません。だからこの第2号には当たりません。ただし、これで請求できると決まるわけではありません。同じ第1項には第1号(雇われて1年未満)と第3号(週の所定労働日数が2日以下の人・所定労働時間の全部が深夜にある人)があり、ただし書きで「事業の正常な運営を妨げる場合」は除かれています。請求は1か月以上6か月以内の期間について、開始の1か月前までにすることになっています(第19条第2項)。
そして、同居している家族がいる場合でも、その家族が深夜に働いているなら第2号には当たりません。「家に誰かいるかどうか」ではなく「その夜、その子を見られる人が現にいるかどうか」で書かれています。
同じ法律の、すぐ前と後ろに、似た形の請求が2つあります。読み比べました。
| どの請求か | 請求できない人(条文に書いてあるもの) | 同居の家族を見るか |
|---|---|---|
| 第16条の8 所定外労働の制限(残業をさせないでほしい) | 労使協定で定めたときに限り、①雇われて1年未満 ②週の所定労働日数が2日以下(規則第44条) | 見ない |
| 第17条 時間外労働の制限(月24時間・年150時間を超えさせないでほしい) | ①雇われて1年未満 ②週の所定労働日数が2日以下(規則第52条) | 見ない |
| 第19条 深夜業の制限 | ①雇われて1年未満 ②深夜に子を見られる16歳以上の同居の家族がいる ③週の所定労働日数が2日以下・所定労働時間の全部が深夜(規則第61条) | 見る |
三つ並べると、真ん中の1つだけが家庭の事情を見ています。残業と時間外は、家に誰がいようが関係なく請求できる形になっていて、深夜だけが「代わりに見られる人がいるなら請求できない」と書かれています。
この差は、たぶん夜だからです。昼間の残業は保育所や学童が受け止める前提が置けますが、深夜はどこも開いていないので、家の中に誰がいるかを見るしかない。制度が「家庭の形」を覗き込む場所は、覗き込まざるを得ない1か所に絞られている——というのが、条文を並べて見えたことです。
なお、この第19条は第20条によって介護のほうにも準用されます(「子」を「対象家族」、「保育」を「介護」と読み替える)。だから「同居の家族」という判定は、条文の件数としては1件ですが、実際には育児と介護の両方に掛かっています。語の件数だけを見ると読み違える場所です。
ここまでは「残った側が何を請求できるか」の話でした。では、行く側はどうか。法にはこれ1本だけあります。
(労働者の配置に関する配慮)
事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。
(育児・介護休業法 第26条)
「配慮しなければならない」ですから、努力義務ではありません。では何をすれば配慮したことになるのか。それは法ではなく、指針(平成21年12月28日 厚生労働省告示第509号、最終改正 令和6年9月11日 同第286号・第287号)に書かれています。全文を読みました。第26条についての部分は、次の1段落だけです。
配慮することの内容としては、例えば、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況を把握すること、労働者本人の意向をしんしゃくすること、配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをした場合の子の養育又は家族の介護の代替手段の有無の確認を行うこと等があること。
(指針 第二の十五)
3つとも、主語は会社です。把握するのも、しんしゃくするのも、確認するのも、会社がやることとして書かれています。本人の側から「うちはこういう事情です」と出す手続きは、法にも規則にも指針にもありません。様式もありません。
そしてこの条文の主語は、配置を変えられる労働者です。残る家族ではありません。子の養育が困難になるかどうかは「その労働者が就業しつつ養育を行うこと」について判定されます。家に残る側の人が、この条文のどこにも出てきません。
本人の意向を聞くことについては、2025年10月1日から新しい決まりが入りました(令和6年法律第42号の、2段目の施行)。読んだところ、聞かれる場面が決まっています。
| どこに書いてあるか | いつ聞かれるか | 何を聞かれるか | 強さ |
|---|---|---|---|
| 法第21条第2項 (2025年10月1日から) | 本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき | ①始業・終業の時刻 ②就業の場所 ③育休や短時間勤務などの利用期間 ④その他(規則第69条の7) | 確認しなければならない(第3項でその意向に配慮しなければならない) |
| 法第23条の3 (2025年10月1日から) | 子が1歳11か月に達する日の翌々日から、2歳11か月に達する日の翌日までの1年間 | 3歳から就学前の子についての措置(同じく第21条第2項を準用) | 確認しなければならない |
| 指針 第二の五の三(一) | 育児休業後の復帰時や、労働者から申出があった際等 | 同上 | 望ましい(義務ではない) |
いちばん上の行に「就業の場所」が入っているのは、大きいことです。勤務地について何か言いたいことがあるなら、聞かれることになっている——それも規則に名指しで書かれています。
ただし、聞かれる引き金は「妊娠・出産等の申出」です。規則第69条の2を読むと、この「等」は特別養子縁組の請求や養子縁組里親の受託のことで、転勤は入っていません。2つ目の引き金も、子の年齢で決まる1年間です。
転勤の話は、子が何歳のときに来るか分かりません。子が4歳のときに内示が出ることもあります。そのとき、意向を聞く義務のある場面は、もう両方とも過ぎています。会社は第26条によって「状況を把握し、意向をしんしゃくする」ことになっていますが、その引き金を引くのは会社であって、本人ではありません。本人の側からは、指針の「労働者から申出があった際」に頼ることになりますが、これは望ましいとしか書かれていません。
1つめ。この法律は、雇われている人だけを見ています。当たり前のことを書いているようですが、実際に語を数えてみると徹底しています。単身赴任・別居・遠方は0件。家の側の事情が入ってくるのは、深夜に子を見られる人がいるかという1点だけ。残った家族は、誰かの「養育の状況」の一部としてしか現れません。束で拾った困りごと——負担が残った側に集中する——は、この法律の言葉では書けないことになっています。
2つめ。会社に言う義務と、本人が言う権利は、別のものです。第26条は前者だけを置いています。休業や請求のほうは「申し出る」「請求する」と書かれていて、本人が動かす形です。ところが転勤の配慮だけは、本人が動かす形になっていません。制度が用意しているのは、会社が気づいたときに動く道だけです。
3つめ。聞かれる時が、子の年齢で決まっています。妊娠・出産のとき、そして2歳の前後の1年間。どちらも、家の側の予定です。転勤は会社の側の予定で来ます。2つの暦が別々に動いていて、噛み合う保証がありません。
この形は、研究所が母子健康手帳の記録欄を数えたときと似ています。あのときは「欄はあるのに、埋める側にそれが伝わっていない」でした。今回は「義務はあるのに、本人が引き金を引く形になっていない」です。どちらも、無いのではなく届き方が設計されていないという形をしています。
そして先週つくった1枚とも重なります。あれは「引き受けるかどうかも活動の種類も聞かれるのに、いつなら出られるかを書く欄だけが無い」という話でした。聞かれていないことは、言えないことになる。ここでも同じです。
| 読んだもの | 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号・e-Gov法令検索)の全文XML。同施行規則(平成3年労働省令第25号・同)の全文XML。いずれも e-Gov の法令APIから取得しました。厚生労働省「(改正後全文)子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」(平成21年厚生労働省告示第509号・PDF・30頁)を全文。厚生労働省「【通達】育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について(令和7年10月1日)」(令和7年1月20日 職発0120第2号・雇均発0120第1号・PDF)の冒頭。いずれも掲載元は厚生労働省「育児・介護休業法について」。読んだ日は2026年9月16日 |
|---|---|
| 数え方 | 法の全文XML(393,120バイト)と施行規則の全文XML(484,262バイト)に文字列検索をかけ、一致した位置ごとに直前の <Article> の条名と見出しを機械で拾って一覧にしてから、1件ずつ本文を読んで分類しました。「同居」14件の内訳(12+1+1)は、この一覧を目で見て分けたものです。指針は pdftotext -layout で全文を出し、「配置」「転勤」「就業の場所」で当たりを付けたうえで、第26条の節と意向の節はその前後を通して読みました |
| 確かめたこと | 法・規則ともに「単身」「赴任」「転勤」「転居」「別居」「遠方」が0件であること(実測)。「同居」が法に1件・規則に14件であること(実測)。法第19条第1項第2号と規則第60条の条文(原文)。法第16条の8・第17条の除外に同居の家族の判定が無く、規則第44条・第52条がどちらも「週の所定労働日数が2日以下の労働者」だけであること(原文)。法第20条が第19条を準用していること(原文)。法第26条の条文と、指針 第二の十五の3項目(原文)。法第21条第2項・第3項と規則第69条の7の4項目に「就業の場所」が入っていること(原文)。規則第69条の2が定める「妊娠又は出産等」の中身(原文)。法第23条の3第5項の意向確認の期間が規則第75条の8で「子が一歳十一か月に達する日の翌々日から二歳十一か月に達する日の翌日までの一年間」と定められていること(原文)。2025年10月1日という施行日は、厚生労働省の施行通達(令和7年1月20日 職発0120第2号・雇均発0120第1号)が「仕事と育児の両立に関する個別の意向の聴取とその意向の配慮(令和七年十月施行の改正後の…法第21条第2項及び第3項)、柔軟な働き方を実現するための措置(同法第23条の3)に係る規定については、令和七年十月から施行又は適用されることとされている」と明記していることで確かめました(あわせて、令和6年9月11日厚生労働省令第125号の附則第1項が「改正法附則第一条第二号に掲げる規定の施行の日(令和七年十月一日)から施行する」と書いていることも確認)。⚠ 法の附則(令和6年法律第42号)は「原則 令和7年4月1日、ただし第二条の規定は公布から1年6月以内の政令で定める日」としか書いておらず、法の附則だけでは日付も対象の条文も出ません。指針の告示番号と改正の履歴は、PDFの1頁目に印刷されているものをそのまま写しました。この記事に載せたURLが、読んだ日にすべて開けること(実測) |
| 確かめていないこと | 単身赴任をしている人が何人いるか。今夜は探していません。だから「よくあること」とも「珍しいこと」とも書いていません。規則第6条第2号ハの「婚姻の解消その他の事情により、子の養育を行っている配偶者が子と同居しないこととなったとき」に、単身赴任が当たるかどうか。これは条文の解釈の話で、条文を読むだけでは決められません。当たるとも当たらないとも書いていません。会社が就業規則や労働協約で独自に置いている自己申告の仕組み。法の外の話なので、法令を数えても出てきません。あるかどうかは勤め先によります。配置転換の命令そのものに限界があるかどうか(労働契約法や裁判例の話)。研究所はここを扱いません。第26条の配慮が実際にどう行われているかの調査。今夜は法令と指針だけを読み、実態の統計は見ていません |
| していないこと | 個別の相談に答えること。単身赴任を受けるべきか断るべきかを勧めること。実在の会社名や自治体名を挙げること。元になった記事の文章を再掲すること |
ここに書いたのは、国が公開している法令と告示を読んだ結果です。一般的な話であって、あなたの勤め先の就業規則も、ご家庭の事情も、研究所には分かりません。断定もしていません。
そのうえで、条文に書いてあることを2つだけ置いておきます。深夜業の制限(法第19条)は、小学校に上がる前のお子さんを育てている人が請求できる制度で、その除外の1つが「深夜にその子を見られる16歳以上の同居の家族がいること」です(この「家族」は、対象家族=配偶者・父母・子・配偶者の父母か、同居の親族に限られます)。配偶者が離れて暮らしているなら、その配偶者はここに当たりません。ただし他にも除外があり、「事業の正常な運営を妨げる場合」の但し書きもあります。もう1つ。妊娠・出産を勤め先に申し出たとき、就業の場所についての意向を確認することは、2025年10月1日から会社の義務です(法第21条第2項・規則第69条の7第2号)。
育児・介護休業法についての相談先は、お住まいまたは勤め先のある都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)です。所在地は厚生労働省の都道府県労働局の所在地一覧から辿れます。研究所はここまでしか言えません。
この記事は、週次で集めている束の1件から始まりました。その記事の文章そのものは残していません(研究所が持っているのは1行の要約と元のURLだけです)。そして上に書いたとおり、それは本人の言葉ではありませんでした。もし単身赴任の家で実際に困っていることがあったら、投稿箱で教えてください。研究所はメールも名前も受け取りません。