読みもの / 整理と仮説
子どもの入院に家族が付き添うことは、国の基準で認められています。健康保険で入院を受ける病院の基準(基本診療料の施設基準の通知)は、「病状により、又は治療に対する理解が困難な小児患者」などの場合に、医師の許可を得て家族が付き添うことは「差し支えない」と書いています。同じ一文の前半は、入院中の看護は、その病院の看護要員(看護師・准看護師・看護補助者)だけで行う、です(その上の省令=療担規則 第11条の2も、患者の負担で病院の外の人の看護を受けさせてはならない、と定めています)。2024年からは、子どもの病棟(小児入院医療管理料を取る病棟)で家族が「希望により」付き添うとき、病院は家族の食事や睡眠の環境に配慮することになりました。一方で、読んだ省令と2本の通知には、付き添いを病院が求めることを定めた一文も、「個室に入るなら付き添い」と結び付ける一文もありませんでした。付き添いを求めるかどうかは、病院の運用で決まっています。こども家庭庁の調査研究事業の調査では、回答した子どもの病院349のうち43.6%が「病状などを考えて、基本的に付き添いをお願いしている」と答えていました。
公開されている掲示板に、こういう投稿がありました(2026年10月・本人の投稿)。就学前の子が手術で10日〜2週間入院することになった。家にはほかに小さいきょうだいがいる。術後はかなり痛むと聞いたので付き添いたい。それで、きょうだいの世話のために配偶者に仕事の調整を頼んだら、「付き添いは必須じゃないんでしょ?」と返された。結局は、大部屋が満床で個室になったら付き添いは必須だと病院に言われているので、調整しておいてほしい、という話で落ち着いた。しかも、一度付き添いに入ると退院まで出られない。
投稿が聞いているのは「付き添いたいのはおかしいか」「仕事の調整を頼むのは非常識か」で、それは家族の中の話です。研究所が答えられるのはその手前の、夫婦がぶつかった一点です——子どもの入院の付き添いは「必須」なのか。必須かどうかは、誰がどこで決めているのか。付き添うべきかどうかには答えません。それは子どもの状態と家の事情で決まることで、研究所には分かりません。
健康保険で診療する病院が守る省令(保険医療機関及び保険医療養担当規則)に、看護の条があります。
保険医療機関は、その入院患者に対して、患者の負担により、当該保険医療機関の従業者以外の者による看護を受けさせてはならない。
2 保険医療機関は、当該保険医療機関の従業者による看護を行うため、従業者の確保等必要な体制の整備に努めなければならない。
(保険医療機関及び保険医療養担当規則 第11条の2)
省令が書いているのは、患者がお金を払って病院の外の人に看護させること(付添看護)をさせないことと、看護のための人を病院がそろえること、の2つです。附則の1つ(1994年10月1日施行)が、この第11条の2を、当時の法律の経過措置で残っていた「付添看護」には当てない、と書いています。家族の付き添いについては、省令は何も書いていません。家族の付き添いが出てくるのは、その下の通知です。
健康保険で入院を受ける病院が満たすべき基準の通知(厚生労働省保険局医療課長の通知)に、看護についての一文があります。2026年度の改定で出し直された版の文は、2022年の事務連絡(後述)が引いている2022年版の文と一字も変わっていませんでした。
看護は、当該保険医療機関の看護要員のみによって行われるものであり、当該保険医療機関において患者の負担による付添看護が行われてはならない。ただし、患者の病状により、又は治療に対する理解が困難な小児患者又は知的障害を有する患者等の場合は、医師の許可を得て家族等患者の負担によらない者が付き添うことは差し支えない。なお、患者の負担によらない家族等による付添いであっても、それらが当該保険医療機関の看護要員による看護を代替し、又は当該保険医療機関の看護要員の看護力を補充するようなことがあってはならない。
(基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて〔令和8年3月5日 保医発0305第7号〕別添2 第2の4(6)ア)
この一文は、条件が4つそろって初めて意味が通ります。
| 何についての条件か | 一文が書いていること |
|---|---|
| 看護をするのは誰か | その病院の看護要員(看護師・准看護師・看護補助者)だけ。患者の負担で付添看護を雇うことはあってはならない |
| どんな患者のときか | 病状により、又は治療に対する理解が困難な小児患者・知的障害のある患者「等」 |
| 誰が決めるか | 医師の許可を得て |
| 付き添う人は何をするのか | 家族など「患者の負担によらない者」が付き添うことは差し支えない。ただし、看護要員の看護を代わったり、補ったりしてはならない |
一文の形は「〜してはならない。ただし〜は差し支えない」です。看護は病院の仕事だという原則があって、家族の付き添いはその例外として許されている形です。付き添いを病院が家族に求めてよいとも、求めてはならないとも、この一文は書いていません(2本の通知で「家族」の前後に「依頼」「求め」「お願い」「要請」がある所も拾い直しましたが、どれも家族が説明や文書を求める場面などで、病院が家族に付き添いを求める文はありませんでした)。
2022年11月9日、厚生労働省保険局医療課は「入院時における付添いの受入れ等にかかる留意事項について」という事務連絡を出しました。冒頭で上の一文を引いたうえで、国の実態調査で付き添った家族から事前の説明を充実してほしいという回答があったとし、こう書いています。
各医療機関においては、医師の許可を得て家族等患者の負担によらない者による付添いを認める際には、当該医師などから家族等に対し、付き添う事由や範囲について十分説明を行った上で、医療機関内の設備等の付添いに当たって必要な情報について、丁寧な説明を行っていただくよう留意されたい。
(事務連絡 令和4年11月9日 記の2)
ここでも書き方は「付添いを認める際」です。そして、付き添う事由(なぜ付き添うのか)と範囲(何をするのか)を、医師などが家族に説明する、と書いています。
2024年度の診療報酬改定で、子どもの病棟(小児入院医療管理料を取る病棟)について、算定の留意事項に、付き添う家族についての一文が入りました。2026年度の版ではこう書かれています。
小児入院医療管理料を算定する場合であって、患者の家族等が希望により付き添うときは、当該家族等の食事や睡眠環境等の付き添う環境に対して配慮すること。
(診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について〔令和8年3月5日 保医発0305第6号〕別添1 A307(2))
国の改定の概要は、この見直しの見出しを「子どもの成長・発達及び希望により付き添う家族等に配慮した小児入院医療体制の確保」としていました(令和6年度診療報酬改定の概要〔医科全体版〕260頁)。国の文書は、ここでも付き添いを家族の希望の側から書いています。
同じ留意事項の通知には、「家族等に対し付添いを強要することがあってはならない」という一文が3か所あります(療養病棟入院基本料〔A101〕(21)・看護補助加算〔A214〕(2)・認知症ケア加算〔A247〕)。ただし、3か所とも身体的拘束を最小化する取組の中の一文で、「身体的拘束を実施することを避けるために、ウ及びエの対応〔できるだけ早く解除するよう努めること・実施の必要性のアセスメントや家族への説明と同意など〕をとらず」に家族に付き添いを強要してはならない、という形です。子どもの病棟の看護補助加算(A307(17))も、この取組を「A101の(21)の例による」としています。付き添い全般について「強要してはならない」と書いた一文ではありません。ここを広げて読むと、病院の窓口で話が噛み合わなくなります。
投稿の病院は「個室になったら付き添いは必須」と言いました。施設基準の通知と留意事項の通知で、「付添」「付き添」が出てくる所(13か所と8か所)の前後120字に「個室」があるかを数えると、どちらも0か所でした(同じ数え方で「個室」そのものは34件と15件あります。拾えていないのではありません)。省令の第11条の2にも「個室」はありません。今夜読んだ省令と2本の通知には、個室と付き添いを結び付ける決まりはありません。個室の料金(差額ベッド)の扱いを書いた別の通知は、この晩は読んでいません(翌晩に読み、そちらにも「付添」「付き添」は0件でした。→ 差額ベッドの記事)。
病院の運用がどうなっているかは、こども家庭庁の調査研究事業の調査が数えています(令和5年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業「入院中のこどもへの家族等の付添いに関する病院実態調査」・野村総合研究所・2024年3月。全国の小児中核病院・小児地域医療センター・小児地域支援病院751に配り、349が回答)。ここでいう「付添い」は、原則として泊まりを伴う付き添いです。
| 何をきいたか(分母) | 答え |
|---|---|
| 入院が決まったときの、泊まりを伴う付き添いの方針(349病院) | 「病状等を勘案した上で、基本的に付添いをお願いしている」43.6%/「希望があれば原則すべての小児に許可」29.8%/「希望があれば特定の条件の小児に許可」20.3%/「基本的に許可していない」6.3% |
| お願いする条件(「お願いしている」と答えた143病院・複数回答) | 「入院する小児が特定の年齢・月齢以下であること」79.0%/医療的ケア児であること 50.3%/特定の疾患であること 26.6% |
| 付き添うときの病室の指定(324病院) | 個室・多床室どちらでも認める 81.5%/個室のみ認める 16.4%/その他 2.2% |
| 付き添いの交代はできるか(322病院) | 交代は可能 94.5%/不可能 5.5% |
| 家族が付き添えず、入院に至らなかった・転院を調整したことがあるか(324病院) | ある 36.1% |
調査の問いは「付き添うなら、どの部屋か」(個室のみ認める 16.4%)で、投稿の病院の向き——個室に入るなら、付き添いが要る——とは逆向きです。個室なら付き添いを求める、という運用がどれくらいあるかは、この調査からは分かりません。投稿にあった「一度入ると退院まで出られない」も、調査がきいているのは交代ができるかで、付き添い中の外出を尋ねた問いはありませんでした。
研究所の読みはこうです。読んだ国の決まりは、付き添いを「許す」側からしか書いていない。看護は病院の仕事、家族の付き添いは医師の許可があれば差し支えない、付き添う家族には配慮を——どれも、付き添いたい家族を受け入れる向きの文です。一方、実際の病棟では、回答した子どもの病院の4割余りが「基本的にお願い」しています。お願いする根拠を書いた一文は読んだ国の決まりには見当たらず、それは病院ごとの運用として伝えられているのだと思います。だから、国の決まりだけを見れば「必須じゃない」と言えてしまい、病院の言葉だけを聞けば「必須だ」になる。投稿の夫婦は、同じ制度の表と裏をそれぞれ見ていたのだと思います。その子の場合に必須かどうかの答えは、国の文書ではなく、その病院の医師の説明の中にあります。2022年の事務連絡は、その説明——付き添う事由と範囲——をするよう病院に求めています。
| 読んだもの | 保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号・e-Gov法令検索)の全文(e-Gov の法令API・附則まで)。厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」の頁にある「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(令和8年3月5日 保医発0305第7号・744頁。九州厚生局の頁の写しでも同じ文を確かめた)と、「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(令和8年3月5日 保医発0305第6号)の別添1(医科点数表)。事務連絡「入院時における付添いの受入れ等にかかる留意事項について」(令和4年11月9日・保険局医療課)。「入院患者の家族等による付添いに関する実態調査」(中医協 総-5・令和4年8月3日。調査は令和3年。回答は病院89・患者家族41で、子どもに限らない)の概要と報告書。「令和6年度診療報酬改定の概要(医科全体版)」。「入院中のこどもへの家族等の付添いに関する病院実態調査」報告書(令和5年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業・野村総合研究所・150頁。巻末の調査票まで読んだ) |
|---|---|
| 数え方 | 省令は全文XMLのタグを外して空白を潰して数えた。「付添」1(附則の経過措置)・「付き添」0・「個室」0、「看護」の条は第11条の2と第20条第7号ハ・第21条第8号ハ(保険医の側の同じ趣旨の定め)。PDFは pdftotext -layout で文字にし、空白を潰して数えた。「付添」「付き添」:施設基準の通知13・留意事項の通知8。その前後120字の「個室」:どちらも0(陽性対照:「個室」34・15、「看護要員」161・5)。「強要」:留意事項の通知3(A101・A214・A247、3つとも身体的拘束の取組の中)・施設基準の通知0。「家族」の前40字・後60字に「依頼」「求め」「お願い」「要請」がある所:施設基準の通知3・留意事項の通知26で、病院が家族に付き添いを求める文は0。調査の数字は、図表を頁ごと画像にして分母(N)を目で読んだ。走査は研究所のリポジトリの research/data/tsukisoi.py |
| 確かめたこと | 療担規則 第11条の2(患者の負担で従業者以外の者による看護を受けさせてはならない・従業者の確保に努める)。施設基準の通知 別添2 第2の4(6)アの一文(2026年版)。事務連絡の「付添いを認める際には…付き添う事由や範囲について十分説明」。留意事項 A307(2)の「希望により付き添うとき…配慮」。「付添いを強要」の3か所が身体的拘束の取組の中にあること。こども家庭庁の調査研究事業の調査の方針(N=349)・お願いする条件(N=143)・病室の指定(N=324)・交代(N=322)・入院に至らなかった等(N=324)の数 |
| 確かめていないこと | 告示(基本診療料の施設基準等)の本体に、付き添いについての文があるか(告示の本体は読んでいない)。個室の料金(差額ベッド・特別療養環境室)の扱いを書いた通知に、付き添いの話があるか(10月13日に読んだ。差額ベッドの節にも通知全体にも「付添」「付き添」は0件。差額ベッドの記事)。「個室なら付き添い」という運用がどれくらいあるか、その理由(看護の目が届きにくいから、などの説明は読んだ国の文書に無く、推測しない)。付き添い中の外出や交代の制限の実態。投稿の病院がなぜそう決めているか。全身麻酔の手術のあとは付き添いが要る、という言い方の出どころ(読んだ省令と通知の付き添いの文には無かった) |
| していないこと | 付き添うべきか・付き添わなくてよいかを言うこと。特定の病院の運用がよいか悪いかを言うこと。声の文章を再掲すること |
ここに書いたのは、国の基準と通知・調査を読んだ結果です。一般的な話であって、あなたの子どもに付き添いが要るかどうかは、研究所には分かりません。それを決めているのは、入院する病院と、診ている医師です。
付き添いが「必須」と言われて、なぜなのか・何をするのかが分からないときは、入院の前に、病棟の看護師や主治医に「付き添う理由と、付き添う人が何をするのか(範囲)」を聞いてよいはずです。国の事務連絡は、付き添いを認める際にはその説明をするよう、病院に「留意されたい」と書いています。あわせて、交代ができるか(調査では、回答した病院の9割余りが「可能」)、付き添う人の食事や寝る場所がどうなっているかも聞いておくと、家族で段取りを組みやすくなります。
子どもの病気で仕事を休むときの決まり(子の看護等休暇)は、看護休暇の記事に、親が入院するときの朝の預け先は親の入院の記事にまとめてあります。
この記事は、公開されている掲示板の投稿1件と、それへの返事を読んで書きました。投稿の文章そのものは残していません(研究所が持っているのは1行の要約と元のURLだけです)。同じことで困っていたら、投稿箱で教えてください。研究所はメールも名前も受け取りません。