読みもの / 整理と仮説
「無償化は3歳から」と聞いて、3歳の誕生日を待っている方へ。保育所に通う子の保育料が零になるのは、誕生日ではありません。その次の3月31日を過ぎてからです。幼稚園に通う子は、満3歳になった日から零になります。同じ3歳でも、無償になる日が最大で364日ちがいます。
そして、0〜2歳に2026年4月から用意された「月10時間」のほうにも、続きがあります。2028年3月31日までは、市町村が条例で、3時間まで下げられることになっています。
研究所が公開情報から拾っている声の中に、9月の終わり、こういう1行がありました。要約は研究所の言葉です(本文は引用しません)。
「無償化」という制度の名前だけが先に耳に入っていて、条件を読んでいなかった。3歳未満は対象外だと、通知で初めて知った。効いたのは月10時間のほうだった。
「名前だけが先に耳に入る」というのは、研究所が何度も見てきた形です。前の週には「106万円の壁」で同じことが起きていました(9月22日の記事)。あのときは、「106万円」という数字が条文のどこにも無いのが答えでした。
今回も同じかどうか、条文を開いて確かめました。結果は、半分だけ同じでした。
子ども・子育て支援法・同施行令・同施行規則の全文を取って、「無償」という語がいくつあるかを数えました。
| 読んだもの | 「無償」の数 |
|---|---|
| 子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号) | 0 |
| 子ども・子育て支援法施行令(平成26年政令第213号) | 0 |
| 子ども・子育て支援法施行規則(平成26年内閣府令第44号) | 0 |
3つとも0件です。制度の側がやっているのは「無償にする」ではなく、保護者が払う額(利用者負担額)を零と定めることでした。だから「無償化」は、政策の呼び名であって、条文の言葉ではありません。
ただし、ここは今回の本題ではありません。呼び名が条文に無いこと自体は、珍しくないからです。研究所が引っかかったのは、その「零と定める」条文の書き方のほうでした。
保育料を零にしているのは、子ども・子育て支援法施行令第4条第1項です。零になるのは次の2つだと書いてあります。
一 法第二十七条第一項に規定する教育認定子ども
二 満三歳以上保育認定子ども(……満三歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある教育・保育給付認定子ども(……「特定満三歳以上保育認定子ども」という。)を除く。……)
一号には、除き書きがありません。二号にだけ付いています。
この2つは、法第19条が定める区分です。一号(教育認定)は「満三歳以上」の子。二号(保育認定)は「満三歳以上」で、保護者の労働や疾病などにより家庭で保育を受けることが困難な子。年齢の条件はどちらも同じ「満三歳以上」です。ちがうのは、保育が必要かどうかだけです。
年齢が同じで、保育が必要な子にだけ、「次の3月31日まで待つ」という除き書きが付いています。
そして、除かれた子がどこへ行くのかは、同じ条の第2項に書いてあります。
満三歳未満保育認定子ども(……特定満三歳以上保育認定子どもを含む。……)に係る教育・保育給付認定保護者についての……政令で定める額は、次の各号に掲げる……区分に応じ、当該各号に定める額……とする。
3歳になった子が、「満三歳未満」の欄に入れられています。そこは所得に応じて保育料が決まる欄で、いちばん上は月額104,000円(保育必要量が少ない場合は102,400円)、いちばん下——市町村民税世帯非課税の場合——が零です(第4条第2項第1号・第8号)。
「満三歳に達する日」は、誕生日そのものではありません。年齢計算ニ関スル法律が民法第143条を準用しているので、誕生日の前日に満了します。これを当てはめると、こうなります。
| 生まれた日 | 満3歳に達する日 | 保育所の保育料が零になる日 | 幼稚園なら |
|---|---|---|---|
| 2023年4月1日 | 2026年3月31日 | 2026年4月1日(3歳の誕生日と同じ日) | 2026年3月31日から |
| 2023年4月2日 | 2026年4月1日 | 2027年4月1日(3歳の誕生日から数えて364日後) | 2026年4月1日から |
生まれた日が1日ちがうだけで、保育所に通う子の保育料が零になる日は364日ずれます。4月2日生まれの子は、3歳の誕生日を迎えてから364日ぶん、保育料を払い続けます。同じ日に生まれて幼稚園に通う子は、その364日のあいだ、零です。
この「4月1日と4月2日」という切れ目は、研究所が9月10日の記事で数えたものと同じ切れ目です。あのときは育休をどれだけ取れるかの話でしたが、保育料の零がいつ始まるかも、同じ日で切られていました。
⚠ ここで言っているのは保育料(利用者負担額)のことだけです。給食費・通園送迎費・行事費などが別に掛かるかどうかは、この記事では確かめていません。
⚠ 表の「幼稚園なら」は、新制度に移った幼稚園・認定こども園の教育利用(1号認定)を指しています。新制度に移っていない幼稚園は、別のしくみ(施設等利用給付・法第30条の4)で扱われます。その条文の年齢の区切りも「満三歳以上」ですが、いくら出るかは今回数えていません。
さて、声のもう半分、0〜2歳に効いたという「月10時間」のほうです。これは2026年(令和8年)4月1日に始まった乳児等通園支援の給付で、保育が必要かどうかを問わずに使えます。
給付費の額を決めているのは子ども・子育て支援法第30条の20第3項で、1時間あたりの単価 × その月に利用した時間という形です。そこに、上限の括弧書きが入っています。
……特定乳児等通園支援を利用した時間(当該時間が十時間以上であって……内閣府令で定める時間を超えるときは、当該内閣府令で定める時間)を乗じた額とする。
その内閣府令は、子ども・子育て支援法施行規則第28条の32——1文だけの条です。
法第三十条の二十第三項の内閣府令で定める時間は、十時間とする。
ここまでは、聞いたとおりです。問題は附則のほうでした。
この条を作った改正府令(令和7年11月13日内閣府令第94号)の附則第2条は、こう書いています。
施行日から令和十年三月三十一日までの間における……第二十八条の三十二の規定の適用については、「十時間」とあるのは、「十時間(地域における……乳児等通園支援の体制の整備の状況その他の事情を勘案して、この条に定める時間によることが適当でないと市町村が認める場合にあっては、三時間以上十時間未満の範囲内で当該市町村の条例で定める時間)」とする。
「月10時間」は、全国一律の数字ではありません。2026年4月1日から2028年(令和10年)3月31日までのあいだ、市町村が「うちでは10時間は適当でない」と認めれば、条例で3時間まで下げられます。
そして、下げられるようにしているのは、この府令だけではありません。法律の側にも、対になる読み替えが入っています。改正法(令和6年法律第47号)の附則第6条です。
第五号施行日から令和十年三月三十一日までの間における……第三十条の二十第三項……の規定の適用については、……第三十条の二十第三項中「十時間」とあるのは、「三時間」とする。
この2つは、別の歯車です。先ほどの法第30条の20第3項の括弧書きは、「利用した時間が十時間以上であって」上限を超えるとき、という条件でした。つまり、府令の上限を仮に5時間に下げても、7時間しか使っていない人には上限が噛みません(7時間は10時間以上ではないので)。そこで法律の側でこの引き金を10時間から3時間へ下げて、条例の低い上限が実際に効くようにしてあります。
⚠ 「法律が月10時間を3時間にした」わけではありません。法律がしたのは引き金を下げることで、実際に時間を決めるのは府令と、市町村の条例です。ここを混ぜて読むと、意味が逆になります。
同じ附則第2条には、第2項があります。研究所がいちばん大事だと思ったのは、ここです。
前項の規定により読み替えられた……第二十八条の三十二の規定により時間を定める市町村(特別区を含む。……)は、乳児等支援支給認定証……に、第二十八条の二十四各号に掲げる事項のほか、当該市町村の条例で定める時間及び当該時間によることとする期間を併せて記載しなければならない。
つまり、10時間より短くしている町は、その時間と、いつまでそうするかを、認定証に書くことになっています。
自分の町が何時間なのかは、条例を探しに行かなくても、手元の認定証に書いてあるはずです。書いていなければ、その町は下げていない=10時間と読めます。
1つめ。「3歳から」という言い方は、2つの意味を1つの言葉にまとめています。幼稚園の側は誕生日の話をしていて、保育所の側は学年の話をしています。どちらも「3歳から」と言えてしまうので、聞いた人は自分がどちらなのかを判別できません。そして判別の基準は年齢ではなく、保育が必要かどうか——つまり親が働いているかどうかです。
2つめ。条文は、その子に名前を付けています。「特定満三歳以上保育認定子ども」。わざわざ定義語を作って、0〜2歳と同じ欄に入れてあるということは、これは書き落としではなく、意図された線だということです。書いた側は分かっていて、受け取る側にだけ見えていません。
3つめ。声の主が「効いたのは月10時間のほうだった」と書いたのは、正確でした。0〜2歳で保育料が零になるのは市町村民税世帯非課税の世帯だけなので、それ以外の家にとって、0〜2歳に届く国の制度はいま、月10時間のほうしかありません。
4つめ。そしてその月10時間は、いま全国一律ではありません。2028年3月31日までは、町によって3時間から10時間のあいだで分かれます。「月10時間」という数字だけが先に全国へ届き、実際の時間は町ごとに決まる——これは、研究所が9月20日の記事でも見た形です。あのときは、制度があるのに本人側の13.4%が「わからない」と答えていました。
5つめ。ただし今回は、行き先が条文に書いてあります。下げた町は認定証に書かなければならない。探しに行く先が「役場のどこか」ではなく「手元の紙」だと決まっているのは、珍しいことです。
| 読んだもの | 子ども・子育て支援法(平成24年法律第65号・e-Gov法令検索)の第19条・第27条第3項・第30条の4・第30条の20第3項と、附則(令和6年法律第47号)第6条。子ども・子育て支援法施行令(平成26年政令第213号・同)の第4条。子ども・子育て支援法施行規則(平成26年内閣府令第44号・同)の第28条の32と、附則(令和7年11月13日内閣府令第94号)第1条・第2条。年齢計算ニ関スル法律(明治35年法律第50号・同)と民法(明治29年法律第89号・同)第143条。いずれも e-Gov の法令APIから取った全文XML・条文XMLで読みました(人が見る画面はJavaScriptで描かれるので本文が取れません)。法令IDは e-Gov の法令一覧APIで法令番号から引いたもので、推測していません。読んだ日は2026年9月23日 |
|---|---|
| 数え方 | 「無償」0件は、3つの法令の全文XMLについて2通りの数え方で別々に数え、どちらも0だったものです——①全文からタグを外して空白を潰してから数える②条(Article)ごとにタグを外して数える。タグや改行やルビが語を割って偽の0が出るのを避けるためです。さらに、同じ手順で「満三歳」(施行令に46件)「特定満三歳以上保育認定子ども」(同3件)「零」(同14件)を数えて、在る語はちゃんと拾えることを確かめてあります(0がしくみの不具合でないことの裏取りです)。364日は、2023年4月2日生まれの子について「満3歳に達する日=2026年4月1日/その日以後の最初の3月31日=2027年3月31日」を条文どおりに当てはめ、誕生日(2026年4月2日)から2027年3月31日までを両端含めて数えたものです |
| 確かめたこと | 子ども・子育て支援法・同施行令・同施行規則に「無償」の語が1件も無いこと。法第19条の3つの区分の年齢要件が第1号・第2号とも「満三歳以上」であること。施行令第4条第1項第1号(教育認定子ども)に除き書きが無く、第2号(満三歳以上保育認定子ども)にだけ「満三歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にある」子を除く括弧書きがあること、その子が「特定満三歳以上保育認定子ども」と定義されていること、同条第2項が「満三歳未満保育認定子ども」にその子を含めると書いていること(すべて原文)。第2項第1号の額が104,000円(短時間認定は102,400円)、第8号イが市町村民税世帯非課税者を零としていること。法第30条の20第3項の括弧書きが「十時間以上であって」という条件付きであること。施行規則第28条の32が「十時間とする」の1文であること。同附則第2条第1項が、令和10年3月31日まで「三時間以上十時間未満の範囲内で当該市町村の条例で定める時間」への読み替えを認めていること、第2項が乳児等支援支給認定証への記載を義務づけていること(原文)。法附則(令和6年法律第47号)第6条が第30条の20第3項の「十時間」を「三時間」と読み替えること。施行日が令和8年4月1日であること(施行規則附則第1条が明記)。年齢計算ニ関スル法律が民法第143条を準用し、同条第2項が「起算日に応当する日の前日に満了する」としていること。この記事に載せたURLが、読んだ日にすべて開けること(実測) |
| 確かめていないこと | 実際に条例で10時間より短くしている市町村がいくつあるか。数えていません。研究所は実在の自治体名を記事に出さないことにしているので、「多い」とも「少ない」とも言えません。分かるのは「下げられる仕組みがあること」と「下げた町は認定証に書くことになっていること」までです。給食費・副食費・通園送迎費などの実費。この記事は保育料(利用者負担額)だけを扱っています。無償化の対象外の費用があるかどうかは確かめていません。認可外保育施設・預かり保育の側(施設等利用給付・法第30条の4)。条文は読みましたが、この記事では数えていません。そちらは年齢の区切り方がまた別です。自治体が独自に上乗せしている補助。国の制度の話だけです。こども家庭庁の解説資料や通知。今回は読んでいません。条文だけで書いています。「月10時間」が通称として何と呼ばれているか。条文上の名前(乳児等通園支援)で書きました。2028年4月以降どうなるか。附則の読み替えが終わることは書いてありますが、その後の運用は分かりません |
| していないこと | 個別の相談に答えること。どの施設を選ぶべきかを勧めること。保育料がいくらになるかを計算すること。実在の自治体名を挙げること。声の本文を引用・保存すること |
ここに書いたのは、条文を読んだ結果です。一般的な話であって、あなたのお住まいの市町村が何を定めているかは、研究所には分かりません。
そのうえで、手元で確かめられることだけを3つ置いておきます。
保育料の額や認定の区分についての確認は、お住まいの市町村の保育担当の窓口(保育課・子育て支援課など、名前は町によって違います)が窓口です。認定証は市町村が出しているものなので、書いてある内容の意味も、そこで確かめられます。研究所はここまでしか言えません。
この記事は、公開されている場所に書かれていた1つの声から始まりました。研究所は本文を保存も引用もしていません。残しているのは「誰が・何に・どう困ったか」の1行と、元の場所だけです。1件しかない声でも扱います。もし保育料や通園のことで実際に困っていることがあったら、投稿箱で教えてください。研究所はメールも名前も受け取りません。